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早瀬 朔(神村学園3年)投手 185/78 右/左 





 「バネが素晴らしい」




 早瀬 朔 の投球内容に入る前に、彼の走る姿が非常に印象的だ。軽くランニングするだけで、バネのある動きを見せる。このような選手が必ず大成するとは限らないが、スカウトの間では昔から「走る姿が良い選手は伸びる」と言われてきた。


投球内容

 鹿児島大会では連投を意識したのか、セーブした投球が目立っていた。しかし、甲子園では初回から全力で投げ込み、春季大会で見せていた躍動感が戻っていた。

ストレート
☆☆☆★ 3.5

 常時145~148km/hの
角度と勢いのあるストレートを、ストライクゾーンに積極的に投げ込んでいた。高めに浮いたり、シュート回転する場面もあったが、序盤は勢いで創成館の打者を圧倒していた。県大会では内外角を大まかに散らし、特に内角を厳しく突く投球も見られた。

 しかし、3回あたりから球威に陰りが見え、相手打者の目が慣れてきたこともあって、高めのストレートを打ち返される場面が目立つようになる。
ゾーン内での制球力やスタミナには課題が残るが、ボールの勢いはこの夏みた高校生投手中でも上位クラスだと評価する。

横変化(スライダー)
☆☆☆ 3.0

 主に右打者の外角低めに切れ込むスライダーを使用。カットボールのような球も投げるが、試合では明確に使い分けているようには見えなかった。本来はストライクゾーンからボールゾーンに切れ込むスライダーで空振りを誘うのが持ち味のはずだが、創成館戦では空振りを奪えない場面が多かった。左打者にも時折このスライダーを投げてくる。

縦変化(フォーク)
☆☆★ 2.5

 左打者に対して積極的にフォークを使用したが、空振りを誘えず苦戦した。現状は、
精度やキレに課題が残るようだ。

緩急(カーブ)
☆☆★ 2.5

 県大会では緩いカーブを時折投げていたが、甲子園では余裕がなく、この球をほとんど使えなかった。中盤以降、投球が単調になり、打ち込まれる要因となった。

その他
☆☆☆★ 3.5

 クイックは0.95~1.05秒程度と素早く、牽制も鋭い。走者への目配せもできており、走者がスタートを切りづらい投手と言える。ベースカバーへの動きも早く、
投球以外の部分でも高い能力を示している。野球センスというより、身体能力の高さが際立つタイプかもしれない。

 一方で、コースの出し入れを精密に行う制球力や、投球タイミングを変化させる投球術などはまだ見られなかった。

セイバーメトリクス補足

 2025年夏の鹿児島大会と甲子園での投球成績(23回2/3イニング、24安打、9四死球、18三振、防御率2.66)を基に、セイバーメトリクスの観点から早瀬の投球を補足分析する。以下に主要指標をまとめる。


指標
補足コメント
WHIP
1.39
安打(24)+四死球(9)÷ 投球回(23.67)= 1.39。1イニングあたりの走者許容数は平均的で、制球力の課題を示唆。
K/9
6.85
三振(18)÷ 投球回(23.67)× 9 = 6.85。高校生としてはまずまずだが、空振りを奪う力は今後の成長に期待。
BB/9
3.42
四死球(9)÷ 投球回(23.67)× 9 = 3.42。やや高めで、ゾーン内での制球精度向上が必要。
K/BB
2.00
三振(18)÷ 四死球(9)= 2.00。制球と奪三振のバランスは平均的。改善余地あり。
FIP
3.50
防御率(2.66)に比べ高め。運に左右されない投球内容に課題が残る。


 これらの指標から、早瀬は勢いのあるストレートで打者を圧倒する一方、制球のブレや変化球の精度不足が課題として浮き彫りになる。WHIPやBB/9の高さは、ゾーン内で勝負する精度を磨く必要性を示す。特に「開き」の早さが打者にタイミングを合わせやすくしている点と一致しており、フォーム改善が指標向上につながる可能性がある。一方、K/9は高校生としてはまずまずで、素材型のポテンシャルを裏付ける。

投球のまとめ

 実戦力という点ではまだ物足りなさがあり、器用な選手とは言い難い。しかし、
指にかかった時のボールの質は非凡で、走る姿と同様に部分的なポテンシャルの高さを感じさせる。素材としての魅力は十分で、個人的には将来性に期待したい選手だ。





投球フォーム

 セットポジションからヒールアップしながら勢いよく足を高い位置まで上げている。これにより投球に角度が生まれる一方、制球のブレが生じやすい。それでも、軸足一本で立った際には膝から上がピンと伸び切らず、バランスを保ちながら立てている。

広がる可能性
☆☆☆★ 3.5

 お尻を適度に一塁側に落とし、体を捻り出すスペースをある程度は確保できている。このため、カーブやフォークといった球種を投げるのに無理はない。

 「着地」までの地面の捉え方も適切で、前にステップできており、体を捻り出す時間もそれなりには取れている。今後さらに粘りが加われば、大きく変化する武器となる球種を習得できる可能性がある。

ボールの支配
☆☆☆☆ 4.0

 グラブを最後まで内に抱え、遠心力が外に逃げるのを抑えている。この点から、リリースが安定すれば両サイドへのコントロールも向上しそうだ。

 足の甲で地面をしっかりと捉えており、浮き上がる力も抑えられている。球持ちも前方でリリースできており、指先の感覚はまだ改善の余地があるが、将来的には制球力の安定が期待できる。

故障のリスク
☆☆☆★ 3.5

 お尻の落とし方が適度で、肘への負担が大きいようには見えない。ただし、フォークなどの縦変化球を多用するようだと、肘のケアには十分注意が必要だ。

 腕の送り出しは角度があるものの、肩への負担は大きくないように見える。普段はセーブして投げている印象で、疲労も溜まりにくいかもしれない。しかし、春季大会のように全身を使った投球を続けるとフォームが崩れ、故障リスクが高まる可能性がある。

実戦的な術
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは平均的で、打者がタイミングを合わせにくいほどではない。ボールの出どころが見やすく、打者にとっては角度や勢いを感じつつも捉えやすいフォームと言える。そのため、球威が落ちたり、ボールが甘く入ると痛打を浴びやすい。

 一方、腕は投げ終わりに適度に体に絡むため、ボールの出どころを抑えられるようになれば、空振りを誘う場面が増えるだろう。リリース時に一塁側に流れがちだが、適度に体重を乗せて投げられている。下半身の筋力や股関節の柔軟性が増せば、さらに爆発的な球を投げられる可能性がある。

フォームのまとめ

 フォームの4大動作(着地、球持ち、開き、体重移動)において、
「開き」が早くボールが見やすいことが最大の課題だ。これにより、打者にタイミングを合わされやすく、縦変化球で空振りを誘いにくい問題が生じている。この点の改善が最大の鍵となる。現状、制球を司る動作は悪くなく、体が成長しリリースが安定すれば、球筋は安定するだろう。故障リスクも比較的低く、将来的には武器となる変化球の習得も期待できる。一見粗削りに見えるフォームだが、意外にフォームは理に適っている印象だ。


(最後に)

 まだ素材型の域を脱しておらず、これからの成長が期待される選手だ。それでも、指にかかった時のボールの質は素晴らしく、素材としての伸び代も十分にある。特に「開き」の改善がポイントだが、リリーフとして起用されれば爆発的なパフォーマンスを見せる可能性がある。

 甲子園では、送りバントをファールと勘違いしてスタートが遅れたり、ベースカバーへの入りが遅れるなどミスが目立った。しかし、牽制やクイック、ベースカバーへの動きは本来早く、投球以外の能力も高い。バネのある素材であることを考えると、大化けの可能性を秘めている。個人的にはドラフト5位前後での評価を想定しており、将来、どこかの球団のクローザーに成長しても不思議ではない素材だと評価する。


蔵の評価:
☆☆(中位指名級)


(2025年夏 甲子園)