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田中 怜利ハモンド(帝京第五3年)投手 189/79 右/右 | |
昨今では、ハーフの選手は特に珍しくない。そんな中、ナイジェリア人の父と日本人の母とのハーフなのだという 田中 怜利ハモンド 。私が今まで観てきたハーフ選手の中で、ここまで下半身を使えた日本人的なフォームで投げ込む選手を、未だかつて見たことがない。この選手は、大化けするかもしれない。 (投球内容) 190センチ近い体格ながら、ワインドアップで大きく振りかぶって投げ込みます。最後の夏は、新居浜工業戦に先発。しかし、2回2/3 を投げたところで、足を負傷して降板し、そのまま敗戦となって終わった。 ストレート 135~最速で140キロ前後に見える ☆☆★ 2.5 試合を見ている限り、常時135キロ~速い球では140キロを越えているように見えました。ただし、この試合の最速は132キロ程度だったと言いますから、見た目以上に速く見える球質なのか? 計測機器の問題かはわかりません。ただし、それだけ速く見えるということは重要な要素です。したがって打者も、高めの速球に対しまともに捉えることができませんでした。 ただ、ボール全体はストライクゾーンの遥か上に抜ける球も多く、コントロールが良いとは言えません。2回2/3を投げて3四死球でしたが、上のレベルの打者相手だと、もっと制球で苦しむ恐れはあります。 変化球 スライダー・カーブ・フォーク ☆☆ 2.0 投球の多くは真っ直ぐで構成されているのですが、時々スライダーを投げ込んできます。しかし、このスライダーの精度も高いとは言えません。カーブのブレーキも決まった球は良かったのですが、常に上手くゆくとは限りません。なんだか、ツーシーム的な球もあるのかなと思ったのですが、これはストレートがシュート回転しているだけなのか? フォークが落ちきらないのかは定かではありません。いずれにしても、ストレート以上に変化球の精度・キレには課題を残します。 その他 クィックは、1.2~1.25秒ぐらいと、やや遅い。それでも、牽制が鋭いことで走者の進塁を防ごうとしている。現状は、荒れ荒れの素材という感じではないものの、細かい駆け引きや微妙な出し入れができたり、「間」を意識して投げるとか、そういった投球ではない。 (投球のまとめ) ある意味で、最近の日本人でもここまで下半身を使って投げ込む選手は少ない。ただ下半身が使えるだけでなく、腕の振りも実に柔らかい。ボールが高めに抜けてしまうことは多々あるし、変化球はまだまだ。しかし、素材としては今まで見たことがないだけに、育成枠ならばありなのではないのだろうか。 (投球フォーム) 今度は、フォームの観点から今後の可能性について検証してみたい。ワインドアップから足を引き上げる勢いは並ぐらいも、高いところまで引き上げてくる。軸足の膝にはさほど余裕はないものの、軸足一本で立った時のバランス取れている。 <広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5 引き上げた足を比較的高い位置でピンと伸ばせているのだが、かなり二塁側に送り込むことでバランスをとっている。そのこと自体は悪いことではないのだが、身体を捻り出すスペースという意味では、少し余裕が無くなってしまう。それでも、カーブやフォークといった球種が、投げられないほどではないだろう。 前にもしっかりステップして、身体を捻り出す時間も確保。将来的には、曲がりの大きな空振りの誘える決め球を習得できるようになっても不思議ではない。カーブで緩急を、フォークで空振りをといった投球も期待できるかもしれない。 <ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5 グラブは最後まで身体の近くにあり、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込むことができている。したがって軸はブレ難く、両サイドへのコントロールはつけやすいのではないのだろうか。足の甲でもしっかり地面を捉えているのだが、膝小僧に土が着くまで沈んでしまうと、効果が薄れてしまう。リリースでもボールを押し込めていないので、ボールが抜けてしまうことが多い。 重心の沈みをもう少し緩和しつつ、リリース時にもっと押し込めるようになると、抜ける球も減って低めに集まるようになってくるのではないのだろうか。 <故障のリスク> ☆☆☆☆ 4.0 お尻は適度に落とせているので、カーブやフォークといった球種を投げても肘への負担は少なそう。それでもフォークを多投するようになれば、それなりに負担は出てくるだろうから、身体のケアには注意して頂きたい。 腕の送り出しを見ていても、肩への負担も少なそう。それほど力投派というほどでもないので、疲労も溜めやすくはないだろう。そういった意味では、しっかりした動作で投げられているので、故障のリスクは低いのではないのだろうか。 <実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5 「着地」までの粘りも適度に作れており、ボールの出どころもある程度は隠せている。そのため、打者としては合わせやすいフォームではないだろう。 「球持ち」は悪いとは思わないが、もっと投げ終わったあと身体に絡むような粘っこさが欲しい。ボールにもまだ充分に体重を乗せられているというほどではないので、このへんはもう少しボールを押し込めるようになると、グッと生きた球が打者に向かうのではないのだろうか。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」に課題があるように思えます。リリースで、もっと押し込む感覚を身につけ安定して来ると、抜け球も減って来るのではないのでしょうか。また体重移動でも、重心が沈みすぎて前にグッとは乗ってきていないので、膝小僧に土がベタッと着かない程度にまでは緩和して良いと思います。理想のステップ幅や重心移動を、見つけて欲しいところです。 故障のリスクは少なく、良い変化球を習得できる可能性も感じるフォーム。柔らかい腕の振りや恵まれた体格も含めて可能性としては計り知れません。アマでは埋もれてしまうそうな素材を、一か八かでプロが育ててみる、これこそが育成枠ならではないのでしょうか。 (最後に) 必ずものに出来るとは言いませんが、素材としてはちょっと見たことがないレベルです。こういった選手を、もっとも時間をかけて観てあげられるソフトバンクという球団に指名されたのは興味深いです。彼がこれから、どんなサクセスストーリーを歩んでゆくのか目撃したいところです。☆ は付けられませんが、期待度は極めて高い素材です。 (2021年夏 愛媛大会) |