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伊藤 稜(阪神)投手のルーキー回顧へ







伊藤 稜 (中京大4年)投手 176/73 左/左 (中京大中京出身) 





「持続力が鍵」 





 2021年度は、まさに「大学生左腕の当たり年」。そんな中、東海地区を代表するのが、この 伊藤 稜 。私自身も、春季リーグ開幕直後に、瑞穂まで彼の投球を確認しにいった。


(投球内容)

 小さめなテイクバックでタイミングを取らせないような変則派に見えるが、実は速球でグイグイと押してくる速球派左腕。2年時には、春・秋のリーグ戦で、共に防御率2位の好成績。しかし3年時は、春はコロナでリーグ戦中止に。秋は、肩痛のためシーズンを棒に振った。

ストレート 常時140キロ~MAX146キロ ☆☆☆★ 3.5

 小さくめなテイクバックで投げ込むサウスポーと訊くと、何かピュッと手元までキレて打者が差し込まれるイメージがしてくる。しかしこの投手の球は、ズシッと重く球威のある球質。球速はコンスタントに140キロ台を記録し、要所では140キロ台中盤の力強いボールを投げ込んでくる。ボールは両サイドには散っているものの、高めに抜けることが多く、本当のコントロールがないのが気になる材料。2年秋のシーズンこそ、投球回数の1/3以下に四死球を留めるも、あとのシーズンでの四球率は40%前後であり、かなりアバウトな制球なのだ。

変化球 カットボール・スライダー・チェンジアップなど ☆☆☆★ 3.5

 暴れるストレートでもある程度投球を壊さないでいられるのは、小さく横に凄くカットボールの存在があるから。それに左打者外角で空振りを奪えるスライダー、右打者外角にチェンジアップも要所で決まり、適度に変化球でも三振が奪える傾向にある。

その他

 クィックは、1.1~1.2秒ぐらいと平均的。牽制も適度に鋭い。けして細かい制球力や駆け引きができる感じではないが、投げっぷり自体は良い投手との印象を受けた。

(投球のまとめ)

 先発でゲームメイクするよりも、勢いのある真っ直ぐを武器にするリリーフ向きなのかもしれません。ただし、本当のコントロールがないところがあるので、日によって調子のムラはあるかもしれません。高校時代は、ボールの割にあっさり打ち返されるのが気になりましたが、今は球威も増してそういった傾向は薄れたように感じます。ただし、2年秋に肩痛で投げられなかったように、シーズンを通じてパフォーマンスを持続できるのかといった部分に、不安が残ることは否めません。





(投球フォーム)

 今度は、技術的な観点から、今後の可能性について考えてみましょう。ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んでくるのですが、その際にクィックのように軸足に体重を乗せきる前に重心を沈ませて投げ込んできます。

<広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足をピンと伸ばさないのですが、お尻の三塁側(左投手の場合)への落としは悪くなりません。そのため、身体を捻り出すスペースは適度に確保できているように見えます。したがって、カーブやフォークといった捻り出して投げる球種も無理なく投げられるかと。

 「着地」までの地面の捉えも早すぎることはなく、身体を捻り出す時間もそれなり。ある程度曲がりの大きな変化球の修得も、可能性ではないかと考えられます。多彩な持ち球に加え、ある程度変化球でも勝負できる投手になるのではないかと。

<ボールの支配> ☆☆☆ 3.0

 グラブは最後まで身体の近くにあり、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。そのため軸がブレ難く、両サイドへのコントロールは安定しやすい。その一方で、足の甲での地面の捉えが浅く、浮き上がろうとする力を充分抑え込めていはいない。したがってボールは上吊りやすく、高めに集まりやすい。

 さらに「球持ち」は良い方ではないので、ボールが押し込めず高めに抜けがち。力を入れて投げると、抑えが効かなくなることがあり、むしろ少し力を抜いて投げるカットボールだとコントロールがつけやすくなっている。

<故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5

 お尻は適度に落とせており、それほど窮屈になることはないのかなと。それもカーブやフォークといった球種もほとんど投げていないようなので、肘への負担は少ないように感じられる。

 腕の送り出しも、肩に大きな負担がかかっているようには見えない。しかし、慢性的な肩痛を抱えているようで、その原因がどこにあるのかは外からはわかり難い。普段は少し抑え気味に投げているようには見えるが、元来力投派なので疲労を溜めやすいのかもしれない。そのへんが、肩などにも疲労が溜まると出やすいのではないのだろうか。

<実戦的な術> ☆☆☆ 3.0

 「着地」までの地面の捉えはそれなりで、テイクバックも小さめでタイミングはとりずらい。またボールの出どころも隠せているので、高校時代のような合わされやすさは解消されつつあるのではないのだろうか。

 気になるのは、振り下ろした腕が身体に絡んで来るような粘っこさがフォームにないこと。そのため緩い球は厳しく、素早く球速のある変化球を中心にピッチングの幅を広げてゆくことになるのではないのだろうか。また投げ終わったあとの地面の蹴り上げも乏しく、前にしっかり体重が乗っていっているのかにも不安が残る。しかし、打者の手元まで力のある球は投げられているので、その点はあまり気にしなくても良いのかもしれない。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「球持ち」や「体重移動」に課題があり、一つボールが揃い出すと連打されやすい淡白さがあるのではないかという印象は受けた。とはいえ、大学に行ってからの被安打率は極めて低いのだが・・・。足の甲の押し付けの浅さや球持ちの粘りの無さから、ボールが上吊りやすいこと。また動作の割に、肩痛を抱えていることは気になる材料。それでも将来的には、良い変化球を修得してピッチングの幅を広げてゆくことは期待できそうなのだが ・・・。


(最後に)

 私が観戦したシーズンはじめでは、制球に不安はあったものの、ボールの勢いには見るものがあった。ただし、シーズンを通してそういったボールの勢いを維持できるかには、かなり不安要素があるということ。そして、根本的な制球力に欠けるところも、少々リスキーな素材であるように思える。そういったことを抜きに純粋にボールの力や投球内容を評価するのであれば、中位(3位~5位)クラスの投手ではあるように思える。ただし、本人のプロ志向にもよるが、能力よりも低めに評価されてしまう可能性も否定できない。そういった意味では、獲得には慎重な見極めが求められそうだ。


蔵の評価:☆☆ (中位指名級)


(2021年 春季リーグ戦)