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| 増居 翔太(25歳・トヨタ自動車) 投手 172/70 左/左 (彦根東-慶応大出身) | |
昨年の都市対抗本戦での投球では、ドラフトでも3位前後で面白いのではないかと評価した 増居 翔太。その後に行われた日本選手権では素晴らしい投球を見せ、今すぐにでもプロのローテーションを担えそうだと実感した。今や、実績・実力的に、アマチュア球界屈指のサウスポーという位置づけになっている。そんな彼の2025年シーズンを考察してみた。 (投球内容) 都市対抗本戦までの2025年度の成績は、54回1/3イニングで41安打、12四死球、47三振、防1.68 と安定している。これにより、WHIP(1イニングあたりの四球+安打数)は0.98と極めて優秀で、K/9(9イニングあたりの三振数)は7.8、BB/9(9イニングあたりの四球数)は2.0、K/BB(三振/四球比)は3.9と制球力の高さを示している。ただし、昨年に比べると、真っ直ぐの走り・キレが少し落ちているという印象を受けている。 ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤 ☆☆☆ 3.0 真っ直ぐの球速は140キロ前後ということで、左腕としてもやや物足りないくらい。その分、ボールの切れ味・球質で勝負するタイプだ。しかし、この真っ直ぐを内外角だけでなく、意図的に高めに投げてくるなど、様々なバリエーションで使い分けることができるところが、他の投手にはない彼の魅力となっている。 ただし、キレ型の球質ゆえに、甘く入ると長打を食らいやすいという側面もあり、HR/9の低さを維持するためにはゾーン低めの精度向上が鍵となる。 横変化 スライダー ☆☆☆ 3.0 横滑りするスライダーで、しっかりカウントを整えてくる。彼の良いところは、このスライダーが比較的低めに集まって失投が少ない点ではないか。これにより、BB/9を低く抑え、WHIPの優秀さに寄与している。 縦変化 チェンジアップ ☆☆☆★ 3.5 勝負どころでは、しっかり低めにチェンジアップを沈ませ、空振りを奪えるということ。それほど絶対的な威力はないが、この球も低めに集められて精度は高い。K/9の7.8を支える空振り率の高さが、勝負球としての信頼性を高めている。 緩急 カーブ ☆☆☆ 3.0 たまにしか使ってこないが、ふとした瞬間に織り交ぜて、思わず打者が前に出されるなど効果的。この緩急の活用が、全体のK/BBを3.9に押し上げ、打者のタイミングを崩す役割を果たしている。 その他 ☆☆☆★ 3.5 クイックは1.0~1.05秒ぐらいとまずまず。走者にも目配せをしつつ投球をしてくる。牽制自体にも自信を持っているのか、二塁などにも積極的に入れてくる。彦根東時代から経験豊富で、マウンドさばきも洗練され、複雑な配球を行える思考力を生かした投球術を持っている。これらの要素が、被本塁打を最小限に抑えるゲームコントロールに繋がっている。 (投球のまとめ) 今年はボールの勢いがやや鈍っているものの、投球の上手さで試合を作っている感じだ。打者を完全にねじ伏せる凄みはないものの、試合をしっかり作れるというところでは健在ぶりをアピールしている。FIP 2.51に対しERA 1.68と守備運の恩恵を受けつつも、K/9とBB/9のバランスがプロの先発ローテ基準をクリアしており、派手さはないが、しっかり仕事をするタイプではないか。 (投球フォーム) セットポジションから、足を勢いよく引き上げてくる。結構先発タイプに見えて、フォーム序盤からエネルギー捻出の高いリリーフタイプの入りをしてくる。軸足一本で立った時には、膝から上がピンと伸び切ってしまい、力みの感じられる立ち方にはなっている。それでも制球は悪くないので、この点はあまり気にしなくても良さそうだ。 <広がる可能性> ☆☆☆ 3.0 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻の三塁側(左投手の場合)への落としが甘くなりがち。そういった意味では、カーブやフォークなどの捻り出す球種は投げられないものの、曲がりは鈍くなりやすい恐れはある。 「着地」までの地面の捉えは、適度に前へステップできている。そのため、体を捻り出す時間はそれなり。武器になるような大きな変化までは期待できないものの、適度にキレのある変化球で投球の幅を広げていけそう。これにより、K/9をさらに向上させる余地が生まれるだろう。 <ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。そのため軸がブレにくく、両サイドへのコントロールはつけやすい。 足の甲での地面の捉えが浅いので、浮き上がろうとする力は十分には抑えられていない。したがって力を入れて投げると、ボールは上吊りやすい。しかしその辺は、「球持ち」が良いことで上手く手元でコントロールし補えている。この制球の安定が、BB/9の低さを支える基盤となっている。 <故障のリスク> ☆☆☆★ 3.5 お尻の落としには甘さが残るものの、カーブやフォークを投げる機会は少なく、そこまで窮屈にならなそう。腕の送り出しにも無理は感じられず、肩への負担も少ない。それほど力投派でもないので、疲労も溜めにくいのではないか。こうした低リスクフォームが、IPを積み重ねる上でFIPの安定に寄与するはずだ。 <実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5 「着地」までの地面の粘りはそこそこで、ボールの出どころもある程度隠せている。キレ型の球質も相まって、打者はワンテンポ差し込まれやすいのではないか。 腕は適度に振れているので、打者としては勢いで吊られるケースも。ボールにしっかり体重を乗せてといったフォームではないので、打者の手元までの勢いや球威はさほどない。ボールがキレている間は良いが、キレが鈍ってきた時に一気に集中打や長打を浴びる危険性は秘めている。HR/9の低さを保つためには、こうした場面での配球工夫が不可欠だ。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「体重移動」に課題があり重心が後ろに残りがちかなと思える部分も、制球を司る動作は悪くなく、故障のリスクも低そう。あとは、いかに武器となる球を見出していけるかではないか。このフォームの特性が、全体のWHIP 0.98という優秀な走塁抑止力に繋がっている。 (最後に) 凄みのある投球をしているわけではないが、複雑な投球術などは他のアマチュア投手とは一線を画すものがある。そういった投球術と安定した制球力を武器に、プロに入っても1年目から先発に入っていけるレベルは維持されているのではないか。今年の内容からすると、ドラフトでは3位前後が想定されるものの、FIP 2.51のポテンシャルを考慮すれば、その順位以上の活躍が期待できるのではないか。アマチュアの投手に、これ以上の技術を要求するのはナンセンスで、プロでも即戦力として期待に応えうる選手になるだろう。 蔵の評価:☆☆☆(上位指名級) (2025年 都市対抗) |
| 増居 翔太(彦根東3年)投手 171/64 左/左 | |
いつも口にすることだが、高校からプロに入る選手は、上手い選手や良い選手といった総合力に優れたタイプではない。何かが、凄い選手こそ高校からプロに入るべき選手なのだと。そういった意味では、増居 翔太 は、典型的な良い選手、上手い選手のタイプに属する選手。進学を明言しているが、その選択は私自身も正しいと思っている。 (投球内容) 170センチそこそこの小柄な体格から、キレのある速球と変化球とのコンビネーションで打ち取るサウスポー。 ストレート 常時135~140キロ ☆☆☆ 3.0 球速表示こそ並だが、ボールにキレがあるのと多彩な変化球との緩急でボールを速く感じさせる術を知っている。この投手は、左腕でも打者の懐を厳しく突くといった投球ではなく、きっちり外角にボールを集めて投球を組み立ててくる。結構制球はバラついていて、四死球は少なくない。 変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブ ☆☆☆ 3.0 カーブでしっかりカウントが取れるし、左打者の外角低めに集めてスライダーは空振りが取れる。右打者にはチェンジアップ系の球も投げてくるが、この球の精度・曲がりは発展途上。現状は、速球とカーブ・スライダーを中心に投球を組み立ててくる。今後は、右打者への投球が課題になってくるのではないのだろうか。 その他 クィックは、1.1~1.15秒ぐらいと平均的。牽制も、二塁などにも入れることが多く、技術的には自信ががあるのだろう。特に運動神経に優れているというよりも、野球センスの高さでしっかりこなせている感じがする。 (投球のまとめ) 打者をみてしっかり投球ができる選手であり、相手を仕留めるコツというものを熟知している。けしてまだ完成されているという感じはしないので、球威・球速を増したりチェンジアップなどを自分のものにできたら、まだまだ投球の幅を広げて行けるだろう。 そういったことを磨くために、大学に進んで腕を磨く時間が必要なのではないのだろうか。東 克樹(立命館大-DeNA)左腕も、愛工大名電時代はこのぐらいの左腕だったと記憶する。非常に頭の良さそうな選手なので、目標を設定して段階を踏んで伸びてきて欲しい。 (投球フォーム) ノーワインドアップ、足を勢いよく引き上げて来る。 <広がる可能性> ☆☆☆★ 3.5 お尻は、それなりに三塁側に落ちてゆく。そのため身体を捻り出すスペースはある程度確保できているので、カーブなどは無理なく投げられている。フォークを投げるのも無理は無さそうだが、手が小さい可能性があり、その点はどうだろうか? 「着地」までの粘りも、ある程度粘ることができ身体を捻り出す時間を確保。将来的にも、キレや曲がりの大きな変化球を、習得できる可能性を秘めている。もっともっといろいろな球を覚えて投球の幅を広げて行けそうだ。 <ボールの支配> ☆☆☆★ 3.5 グラブは最後まで身体の近くにはあり、両サイドへの投げ分けはできそう。足の甲でも地面をしっかり捉えて離さないので、ボールはそれほど高めには抜けない。さらにリリース時にもっとボールを押し込めるようになれば、膝下に集まる球も増えてきそうだ。少し気になる点をあげるとすれば、腕振りが身体から離れ気味なので、こういった投手はコントロールが乱れやすい傾向にある。 <故障のリスク> ☆☆☆☆ 4.0 お尻はある程度落とせているので、カーブやフォークといった球種を投げても窮屈になり難く、肘への負担は少なそう。腕の送り出しにも無理はなく、肩を痛める心配も少ないのではないのだろうか。それほど力投派でもないので、疲労も貯め難くそうだ。 <実戦的な術> ☆☆☆★ 3.5 「着地」までの粘りもそれなりで、それほど合わせやすいフォームではないだろう。また「開き」も抑えられているので、ボールの出処もわかり難いはず。コントロールを間違えなければ、痛手は喰らわないのではないのだろうか。 腕は振れて勢いがあるので、変化球でも空振りを誘いやすい。ボールへの体重の乗せ具合も、充分とは言えないが悪くはない。 (フォームのまとめ) フォームの4大動作である、「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、大きな欠点は特にはない。しかし「着地」「球持ち」「開き」なども発展途上であり、もっと追求すれば打ち難かったり、エネルギー効率の良いフォームになって行けるだろう。 故障のリスク・制球を司る動作も悪くなく、今後投球の幅広げて行ける下地もある。肉体の成長と意識次第では、まだまだ良くなって行ける可能性を秘めている。 (最後に) 身体も小さく、マウンド捌きの良さからも、上積みがあまり残ってなさそうに見えるかもしれない。しかしこの投手は、まだまだ肉体的にも技術的にも発展途上であり、これからグッと伸びて行ける可能性を秘めている。 現時点では驚くほではないが、これが大学を卒業する頃にはどのぐらいになっているのか非常に興味深い。まずは大学などでワンクッション置いてから、4年後に上位指名候補に浮上して来ることを楽しみにしている。そのため現時点では、プロ入りへの「旬」だとは判断しない。 (2018年 センバツ) |