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栗林 良吏(広島)投手のルーキー回顧へ







栗林 良吏(24歳・トヨタ自動車)投手 178/83 右/右 (愛知黎明-名城大出身) 





「大人の投球」 





 今年指名された新人の中でも、最も大人の投球ができるのが、この 栗林 良吏 。 緩急を効かせつつ、両サイドに自在に投げ込むことができ、同じような軌道から違う球種を使い分ける。そんな芸当ができるのは、この 栗林 を置いて他にはいない。


(投球内容)

 今年の都市対抗では、緒戦に先発。7イニングを5安打・2四死球・13奪三振を奪いながらも、2ランホームランが響いて緒戦で破れ終わりました。この投球が、今の彼の能力を象徴するような内容で、興味深いものがありました。

ストレート 常時145~150キロ台前半 
☆☆☆★ 3.5

 無理しなくても、安定して140キロ台後半を刻めます。ボールには球威があるというよりも、ピュッと手元で切れる球質で高めで空振りが奪えます。両サイドにはしっかり投げ分けることができ、内角を厳しく突いたり、外角一杯に投げ込んできたりもできます。

 気になるのは、全体的に高めにゆくことが多いこと。時々膝元に角度のある球が決まることもあるのですが、カウントを稼ぐための速球などは、高めに甘く浮いて痛打を浴びてしまうことがあります。キレ型の球質ゆえに、タイミングがあってしまうと飛んでゆく怖さもはらんでいます。好投しても、こういった球が致命傷になり、勝ちきれない可能性も捨てきれません。

変化球 スライダー・フォーク・チェンジアップなど 
☆☆☆☆ 4.0

 曲がりながら沈む120キロ台のスライダーを中心に、もっと緩い110キロ台のカーブ・140キロ台前半のカットボールなどもあります。チェンジアップのように沈みながらもストライクゾーンに決まる球もあれば、ストンと低めに落ちて空振りを誘うフォークなど、実に球種を多彩です。この投手は、あくまでもストレートも球種の一つといった感じで、こういった多彩な球種とのコンビネーションで相手を討ち取ってくる投球です。時にチェンジアップを魅せておいてから、次にストンと落ちるフォークを投げたりと、同じような軌道でも球種を変えることで相手を誘い、討ち取ってくる配球を得意としています。

(投球のまとめ)

 両サイドにボールを散らせつつ、多彩な球種で的を絞らせないのが持ち味です。時々高めに力のない球を投げて、痛打を浴びてしまう怖さがあります。特にプロの打者はそういった球を見逃してはくれないので、そのへんで自分のペースが崩されないかが、一つ活躍の大きな鍵になるのではないかと。それでも持っている多彩さ、投球術、ボールの威力などを考えると、開幕ローテーション入は充分期待できる完成度にはあります。


(投球フォーム)

 今度はフォームの観点から、その可能性について考えてみます。セットポジションで足を引き上げる勢い・高さは並ぐらい。軸足一本で立った時のバランスも、平均的ではないのでしょうか。

<広がる可能性> 
☆☆ 2.0

 引き上げた足を地面に向けて、突っ立った感じで投げ込みます。そのためお尻の一塁側への落としは作れず、カーブやフォークといった球種には適さない投げ方です。

 また「着地」までの地面の捉えも淡白で、身体を捻り出す時間も物足りません。通常こうなるとキレや曲がりの大きな変化球の習得は難しく、高速で小さなな変化を中心にピッチングを広げることになります。フォームの割には、変化球のキレや曲がりの大きさ・精度などはかなり高いとは思うのですが・・・。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を抑え込めています。したがって両サイドへのコントロールは、ブレが少なくつけやすいと考えられます。実際の投球でも、そういった部分はしっかりできています。

 しかし足の甲での地面の捉えが浮いてしまっていて、力を入れて投げるとボールが上吊りやすい。普段がから球が真ん中~高めに集まりやすいのも、この部分が大きく影響しているのでは? それでも「球持ち」は良く、指先まで力を伝えられます。このことにより、かなり細かい制球力を修正できていると考えられます。

<故障のリスク> 
☆☆ 2.0

 お尻が落とせないので身体を捻り出すスペースが確保できず、窮屈になりがち。その割にカーブやフォークも使ってくるので、肘への負担もそれなりにあるのでは?

 さらにボールを持っている肩は上がり、グラブを持っている肩は下がるような形での送り出しなので、肩への負担も少なくないように感じます。けして力投派ではないのは救いですが、身体への負担はかなり高いフォームだと認識しております。そういった意味では、何年にも渡り、安定して活躍できるのかには不安が残ります。

<実戦的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りがあっさりしていて、ボールの出どころもさほど隠せていない。打者としては、タイミングが合わせやすいフォームです。その分多彩な球種とのコンビネーションで、微妙にズラすのが持ち味なのかもしれません。

 腕は強く振れて勢いがあるので、打者の空振りは誘いやすそう。しかし足の甲が地面から浮いてしまっており、前には体重は移っていっているものの、球威のある球が投げられません。すなわち腕や上半身の振りの鋭さで、キレを生み出すことになります。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」「体重移動」に課題を残し、「球持ち」の良さで救われている部分があります。制球を司る動作には優れているものの、故障のリスク、武器になる変化球の習得という意味では不安は残ります。しかし変化球は多彩でキレも悪くないので、その点はあまり気にしなくても良さそうです。

 完成度は屈指の投球を魅せる投手ですが、ことフォームという観点で見ると実戦的とは言えません。このへんをどうみるかで、評価も変わってくるのではないのでしょうか。


(最後に)

 投球内容からすれば、7,8勝~10勝ぐらい一年目からしても不思議ではありません。それだけ開幕ローテーションということで計算するのであれば、充分にその期待に応えてくれるのではないのでしょうか。しかし故障へのリスクなども考えると、長い目でみると安定した活躍や、年々進化していってというタイプかと言われると不安があります。それでも社会人では抜けた存在であり、1位指名にはふさわしい選手ではないのでしょうか。カーブが単独1位を選択した戦略には、応えてくれる投手だとみています。


蔵の評価:
☆☆☆☆ (1位指名級)


(2020年 都市対抗) 










栗林 良吏(23歳・トヨタ自動車)投手 177/79 右/右 (愛知黎明-名城大出身) 
 




「今や文句なしの上位候補」 





 大学の下級生の時から、東海地区を代表する投手として注目されてきた 栗林 良吏 。しかし大学時代は、リーグ戦では良くても全国大会では何か物足りないものがある投手だった。そのため私は、社会人を経由した方がいいのではないかと言ってきた選手。そしてトヨタ自動車に進み、今や文句なしの上位指名候補へと成長しつつある。


(投球内容)

中背の体格から、ランナーがいなくてもセットポジションで投げ込んできます。

ストレート 常時140キロ台中盤~150キロ台前半 
☆☆☆★ 3.5

 体格のため球速ほど凄みがあるとか、苦になるストレートではありません。そのため大学時代は、ストレートで押して打ち込まれてしまうことも少なくありませんでした。しかし先発でも無理なく150キロ前後のボールを投げ込み勢いを増している上に、多彩な球種を織り交ぜ、ストレートをより活かすことができています。ストレート自体は、両サイドに散らしつつも、やや真ん中~高めに集まりやすい傾向があります。

変化球 カーブ・スライダー・カットボール・ツーシーム・スプリットなど 
☆☆☆☆ 4.0

 110キロ台のカーブだかカーブのような軌道のスライダーを多く使ってきます。またカットボールやツーシームも多めに混ぜつつ、スプリットもあり、ストレートと見分けが難しい上にどのように変化するのか非常に見極めが困難です。それでいて要所では、150キロ前後のフォーシームをズバンと投げ込んでくるので、打者としてはお手上げの状況です。変化球も両サイド・低めに集まりやすく、ストレートよりもバラツキは多くありません。投球の多くを変化させることで、より自慢のストレートも活かせるようになりました。

その他

 牽制も適度に鋭いですし、クィックも1.10~1.25秒ぐらいと平均的。ランナーを背負ってからは、ボールをじっくり持つなどして「間」を意識して投げられています。大学時代のような、単調になることを防げています。

(投球のまとめ)

 純粋なフォーシームを投げる割合を減らし、動かす球を増やなどしてピッチングスタイルは大きく変わってきています。アバウトなストレートへの依存度を減らし、ここぞの時に使うという感じに変わってきています。打者としては、どういうふうにボールが変化するのか予測が難しく、緩急・両サイド・高低 と全てに注意を払わないといけないという、短いイニングや少ない対戦機会では攻略が困難な投手になってきました。


(投球フォーム)

今度は、フォームの観点から考えてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆ 2.0

 お尻はバッテリーライン上に落ちがちで、身体を捻り出すスペースは充分ではありません。そのためカーブやフォークといった球種には、適さない投げ方です。

 「着地」までの粘りも淡白で、身体を捻り出す時間は充分ではありません。それでもフォームの構造を充分理解して、カットボール・ツーシーム・スプリットなどの球種を駆使して、うまくピッチングの幅を広げられているのではないのでしょうか。基本的に、曲がりの大きな変化球の習得には向いていませんので、変化球で三振を奪う割合は少ないと考えられます。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を抑え込めています。そのため左右の軸のブレは抑えられ、両サイドへのコントロールはつけやすいと言えます。

 その一方で、足の甲の押し付けは浅く、浮き上がろうとする力を充分押し込めてはいません。したがって力を入れて投げると、ボールが上吊りやすい傾向にあります。「球持ち」自体は、けして悪い選手ではないのですが。

<故障のリスク> 
☆☆★ 2.5

 お尻が落とせないフォームの割に、カーブのような軌道の球を結構使ってきます。この球が純粋なカーブなのか? スライダーなのか、ナックルカーブの類なのかは定かではありません。しかし身体を捻り出すには窮屈になりがちなので、そういった球を投げると肘への負担がないとまでは言えません。

 またボールの送り出しも、ボールを持っている肩は上がりグラブを持っている肩は上がる傾向にはあります。極端ではないので気にする必要はないと思いますが、けして肩への負担も少ないとは言えません。先発で投げればそれほど力投シて投げないので、疲労は溜まり難いとは思うのですが・・・。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りがあるわけではないので、打者として苦になり難いフォームです。ボールの出どころはある程度隠せてはいるので、コントロールミスをしなければ大丈夫だとは思うのですが。しかし大学時代も150キロ級のボールを投げ続けても打たれていたことを考えると、やはりストレートだけだと打たれやすい投手なのだと思います。

 腕はしっかり振れており勢いがあるので、打者の空振りを誘いやすいはず。ボールにも適度に体重を乗せてからリリースできているので、打者の手元まで勢いのある球は投げられています。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」の粘りに課題を感じます。それを補っているのが、「球持ち」の良さにあります。

 足の甲の押し付けの浅さからボールが高めに浮きやすい点、故障のリスクがそれなり高い点、将来的に武器になるほどの変化球を習得できるのかという不安はあります。しかしこの選手、こういったフォームの構造を理解して、それと上手く向き合って自分の投球スタイルを確立できている点は好感が持てます。フォーム技術に課題が多いものの、それを欠点とさせない投球の工夫が観られるのです。


(最後に)

 大学時代は、リーグ戦では通用しても全国大会などより高いレベルの相手だと通用せずに苦しみました。その反省からか、実に相手に的を絞らせない投球を作り出すことに成功。単調で一辺倒な投球から、見事に脱却しつつあります。今ならば即戦力としてプロの世界に入っても、活躍できるのではないのでしょうか。ドラフトでも上位指名(24名)までには、入ってくる選手だと思います。


(2019年 都市対抗)









栗林 良吏(名城大4年)投手 177/79 右/右 (愛知黎明出身) 





 「成績が悪かったわけではなかった」





 栗林 良吏 の評判をこの春あまり耳にすることはなかったが、全日本大学選考会・平塚合宿の候補にも招集されたように、けして今春の成績が悪かったわけではなかったようなのだ。しかし平塚合宿での登板では、甘い球を痛打されるなど内容はけして良いといえるものではなかった。そのため、代表選出には至らなかった。

(投球内容)

中背の体格から投げ込む、オーソドックスなフォーム。

ストレート 140キロ前後~140キロ台後半 
☆☆☆★ 3.5

 ストレートの勢い・球速はそれなりに感じさせるものの、ボールに角度がなく甘い球も少なくないので、その球を打ち返される場面が目立ちました。普段は140キロ前後ぐらいでコントロール重視で投げてきますが、仕留めにゆくときは140キロ台後半で力を入れて投げこんできます。そういった球が甘くなることが多く、球速は出るものの簡単に打ち返されていた姿は愛知大時代の 祖父江 大輔(中日)を彷彿とさせます。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ・ツーシームなど 
☆☆☆★ 3.5

 大きく横曲がりするスライダーが最大の武器で、他にチェンジアップやツーシーム系の球を織り交ぜます。ブレーキの効いたカーブも投げられますし、多彩な変化球のキレ・曲がりはよく変化球自体は悪くありません。こういった球とのコンビネーションで、うまく討ち取ってゆくのが、この投手の持ち味なのではないのでしょうか。

その他

 同じ牽制でも、軽く投げるときもあれば鋭く投げて刺しに来るときもあります。クィックは、1.15秒前後と平均的。球種は多彩な割に投球が一辺倒に感じられるのは、投球術などに課題し、苦しくなると速球とスライダーとの単調なコンビネーションになってしまうからではないのでしょうか。

(投球のまとめ)

 速球にしても変化球にしても、ボール1つ1つは悪くはありません。しかしその割に、投球全体でみるとと奥深さが感じられない。一つは、中背の体格から力で抑え込もうとするから。もう一つは奥深い駆け引きや繊細なコントロールに欠けるからだろうと考えます。


(成績から考える)

オフシーズンの寸評ではフォーム分析をしたので、今回は今春のリーグ戦成績を元に考えてみましょう。

9試 4勝2敗 72回 52安 21四死 53奪 防 1.75(2位)

1、被安打はイニングの70%以下 △

 地方リーグの選手なので、ファクターは厳しめの70%以下に。そういった意味では被安打率は72.2% と若干物足りない。この辺が、全国レベルでは甘い球を逃さないで叩かれたりされる、詰めの甘さに繋がっているのではないのだろうか。

2、四死球はイニングの1/3以下 ◯

 四死球率は29.2%と、基準を満たしている。繊細なコントロールがあるわけではないが、四死球で自滅するといったタイプではなさそうだ。課題は、ストライクゾーンの枠の中での制球力だとわかってくる。

3、奪三振は1イニングあたり0.8個以上 △

 1イニングあたりの奪三振は、0.74個と基準を満たしていない。平均は0.65個前後なのでやや多めではあるが、150キロ級の速球と多彩な変化球がある割にはそれほど高くない。プロの打者を仕留めるほどの、絶対的な決め手はないということなのだろう。

4、防御率は1点台 ◯

 この春の防御率は、1.75(2位)と基準を満たしているはいるが、絶対的な数字ではない。プロを目指すならば1点台前半、あるいは4年間の中で1シーズンぐらいは0点台ぐらいの圧倒的な数字が欲しい。3年春のリーグ戦では、防1.38で最優秀防御率を獲得。それ以外のシーズンでは、1.50以内の壁は破れていない。

(成績からわかること)

 けして悪い成績ではないのだが、突き抜けたものがない。そのへんが、大学からプロとなるとやや決め手に不足の印象をうけるのだ。そういった詰めの部分を、社会人なりで改善できると面白いと思うのだが。


(最後に)

 実際の投球を見ていても、リーグ戦の成績を検証してみても、大学からプロというには物足りない。昨秋の神宮大会でみた印象と、この平塚合宿での登板の間には大きな成長は感じられなかった。ここは社会人にでも進んで、その足りない部分を補うことに力を注いで欲しい。2年後、文句なしの形でプロの門を叩いて頂きたい。


(2018年 全日本平塚合宿)


 







栗林 良吏(名城大3年)投手 177/77 右/右 (愛知黎明出身) 
 




「もっと飄々と投げていたような」 





 栗林良吏を初めてみたのは、2年生の時の平塚合宿だっただろうか? その時は、もっと飄々と力み無く投げていたような記憶がある。しかしこの秋の神宮大会では力みまくって、元来の投球からは程遠かったのではないのだろうか。しかしそれでも、一つ一つのボールには、素晴らしいものがあった。


(投球内容)

中背の体格ながら、腕の振りの強い上半身主導のフォームです。

ストレート 130キロ台後半~MAX149キロ 
☆☆☆☆ 4.0

 ボールの勢い・回転の良さには、眼を見張るものがありました。球速も130キロ台後半ぐらいで落ち着いて投げるときもあれば、力を入れて投げる球は150キロ近くいつでも出せます。ただし両サイドにはボールは散るものの、高めに浮くのがこの選手の悪いところ。時々甘く入った球を、痛打される場面を何度となく観た記憶があります。

変化球 カーブ・スライダー・ツーシーム・チェンジアップ? 
☆☆☆★ 3.5

 どの変化球も、変化自体には良いものを持っています。カーブもブレーキがありますし、最大の武器でもあるスライダーの曲がりも大きい。ツーシーム的な球も混ぜますし、チェンジアップだかフォークのような沈む球の落差も確かです。ただしその球の精度が全体的に低く、どうもストレートも含めて投球がバラバラという感じがします。投球に調和がなく、それぞれの球が勝手に自己主張しているような投球になっています。甘く入った変化球を、打たれてしまったり見逃されてしまうことも少なくありません。

その他

 同じ牽制でも、軽く投げるときもあれば鋭く投げて刺しに来るときもあります。クィックは、1.15秒前後と平均的。特に投球以外の部分は、可も不可もなしといった感じでしょうか。

(投球のまとめ)

 秋の神宮大会では、力みまくって元来の投球ではなかったように思えます。ただしボール1つ1つは良く、能力の片鱗は感じられました。普段は、もっとゆったりと投げるタイプの投手。最終学年では、リーグ戦の投球を大舞台でも発揮できか注目したいところです。


(投球フォーム)

今度はフォームの観点から、今後の可能性について考えてみましょう。

<広がる可能性> 
☆☆★ 2.5

 少し甘さは残すものの、お尻はある程度一塁側に落とすことはできています。そういった意味では、カーブやフォークといった球種を投げても、無理はありません。

 しかし「着地」までの粘りは淡白で、身体を捻り出す時間は不十分。こうなるとキレのある変化球や曲がりの大きな変化は望み難いように思います。しかし実際には、曲がりの大きな変化は実現できており、むしろコントロールの問題になっています。

<ボールの支配> 
☆☆☆ 3.0

 グラブは内に抱えられており、両サイドの投げ分けはつけやすい。しかし足の甲での地面への押しつけが浮いてしまっているので、力を入れて投げるとボールが抜けてしまいがち。それをなんとか、「球持ち」の良さで押さえ込もうという感じのフォームです。しかし力んで投げると、ボールが高めに浮いてしまう傾向にあります。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻の落としに甘さは残すものの、カーブやフォークといった球種を投げても、さほど窮屈さは感じられないのではないのでしょうか。そういった球を使う頻度も少ないですし、肘への負担は低いと考えられます。

 腕の送り出しにも無理は感じないので、肩への負担も少なそう。普段はそれほど力投派でもないので、疲労も溜め難いのではないかと考えられます。そういった意味では、故障のリスクはさほど高くないのではないのでしょうか。

<実戦的な術> 
☆☆★ 2.5

 「着地」までの粘りがないので、打者としては球速ほど苦にならないのではないのでしょうか。また「開き」も若干早いために、コースを突いたはずの球が打たれたり、縦の変化球を見極められる危険性もあります。この辺は、ボールの変化は大きい割に、あまり空振りが取れていないことに繋がっていると考えられます。

 腕の振りは非常に強く、ボールには勢いを感じます。足の甲の押し付けができないだけに、どうしても下半身のエネルギーを後の動作に伝えきれていないのが残念です。そのため、上半身の力に頼ったフォームになってしまうのでしょう。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「体重移動」「開き」「球持ち」においては、「球持ち」以外には課題があることがわかりました。これだけのボールを持っていても、打たれてしまう理由がここにあるのではないのでしょうか。

 制球を司る動作は、足の甲が押し付けられないことで高めに集まりやすいこと。故障のリスクはそれほど高くないものの、武器になるほどの変化球を今後修得して行けるのかには疑問が残ります。けしてフォームに関しては、実戦的とは言えないでしょう。


(最後に)

 ボール自体は素晴らしいのに、それが全国レベルでの結果に繋がらない。それはやはり、技術的な部分で課題が多いからではないかと考えられます。問題はそういった部分を、いかに最終学年で改善して行けるのか?

 あと神宮大会での投球を観てもわかるように、どうも大舞台での緊張してしまって自分の能力を充分発揮できなかったのは偶然なのか? 特に前年にも神宮のマウンドを経験していただけに、その辺は気になります。そういった意味では、環境適応の遅い選手なのかもしれません。果たして最終学年に、こういった課題とどう向き合って成果をあげられるのか、その変化に注目したいと思います。上位指名候補ではないと思いますが、中位~下位ならば指名の可能性はある素材だと思うので。


(2017年秋 神宮大会)