16kp-19


 




早川 隆久(楽天)投手のルーキー回顧へ







早川 隆久(早稲田大4年)投手 180/80 左/左 (木更津総合出身) 
 




 「もうアマでやることはない」





 大学の3年生までは、通算で 7勝12敗 防御率 3.18 。木更津総合時代には上位指名候補と言われていた男の成績としては、なんとも物足りなかった 早川 隆久 。 実際その投球にも、何か訴えかけてくるものがなく、試合中盤になるとつかまる場面を何度も目撃してきた。しかしそんな早川が、8月に行われた春季リーグ戦では別人のような凄みのあるボールを連発して驚かされた。


(投球内容)

 セットポジションから、静かに入って来る落ち着いたフォーム。4年秋の成績は、7試合に登板して、6勝0敗 防御率 0.39 と圧倒的な内容だった。

ストレート 常時140キロ台後半~150キロ台中盤 
☆☆☆☆ 4.0

 8月に行われた時は、常時150キロ台~中盤のボールを投げ込んでおり、正直度肝を抜かれました。しかしこの秋は、常時150キロ前後ぐらいと迫力という意味では少し劣っていたように思えます。そのぶん丁寧にボールを投げている感じで、少し置きに来るような感じではあったのですが、コントロールミスは少なかったです。

 被安打は46イニングで18安打と、被安打率は驚異の39.1%(目安は70%台)。四死球率も、17.4%(目安は投球回数に対し1/3以下) と、極めて優れていたことになります。すでに六大学の打者達では相手にはならず。見下ろして投げる余裕すら感じさせるものがありました。このへんは、春季リーグでやれるという確かな手応えを掴んだのが大きかったのではないのでしょうか。

変化球 スライダー・カーブ・ツーシームなど 
☆☆☆☆ 4.0

 130キロ台後半のカウントを整えるためのカットボールを中心に、120キロ台の曲がりながら沈むスライダーに、小さく右打者の外角逃げてゆくツーシーム的なボールがあります。特にこの140キロ近いカットボールのような球は昨年までなかったボールだと思うので、この球を覚えたことが球速アップと同じぐらい大きかったのではないかと。これらのボールとうまく組み合わせながら、的を絞らせないのが早川の持ち味。46イニングで74奪三振と、1イニングあたり 1.61個 と大学生としては破格の奪三振率を誇ります。むしろ早川の魅力は、150キロ台の速球を意識させておいての、変化球で仕留めるというパターンなのかもしれません。

その他

 クィックは、1.15~1.25秒 ぐらいと、左投手としては平均的。牽制も鋭いですし、フィールディングも落ち着いてボールを処理できます。

(投球のまとめ)

 淡々と投げていて、あまり投球の強弱というかメリハリはが効くようになったという感じはしません。しかし以前だったら、試合中盤ぐらいには慣れられて捕まっていたピッチングが、最高まで相手を翻弄できるピッチングができるようになってきました。このへんはストレートの勢いが圧倒的に増したことで余裕が生まれ、より各変化球が生きるようになったのではないのでしょうか。特に昨年まではなかった140キロ近いカットボールが使えるようになり、ピッチングの幅が変わったことも大きかったと考えられます。


(投球フォーム)

 今度はフォームの観点から、昨年から大きな変化があったのか考えてみたい。セットポジションからゆったりとは入るが、足を引き上げる勢いはそれなり。軸足一本で立った時には、膝には余裕はなく真っ直ぐ立つものの、高く足を引き上げているのでバランスは適度に取れている。

<広がる可能性> 
☆☆☆★ 3.5

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻はバッテリーラインに残りがち。そのためカーブやフォークといった球種は、投げられないことはないと思うが変化は鈍くなりがち。そのためこういったボールは、投球でほとんど観られません。

 しかし「着地」までの粘りは、昨秋よりも若干良くなった感じはする。そのため身体を捻り出す時間はそこそこで、変化球のキレや曲がりは悪くはない。しかし彼の変化球を観ていると、大きく変化するから仕留められているのではなく、あくまでも速球を強く意識させ、見分けの難しいことで効果を発揮しているのではないのだろうか。

<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内に抱えられ、外に逃げようとする遠心力を内に留めることはできている。したがって、両サイドへのコントロールはつけやすいのではないのだろうか。しかし足の甲の地面への捉えは浅めで、けして浮き上がろうとする力を充分に抑えられているわけではない。実際早川の球筋を観ていると、真ん中~高めが多く低めにズバッと決まって抑えられているわけではないのだ。

 また「球持ち」はそれなりに良くて、ある程度狙ったところに制御できる指先の感覚を持ち合わせている。むしろ足の甲の地面の捉えは、昨秋の方が深く沈んでいたのではないかと思えるほどだ。

<故障のリスク> 
☆☆☆ 3.0

 お尻の落としは甘いものの、カーブやフォークといった球種はあまり投げて来ない。そういった意味では、窮屈になる機会も少なくそこまで気にすることは無さそう。

 むしろボールを持っている肩が上がり、グラブを抱えている肩が下がり気味で、肩への負担を感じなくはない。それでも力投派でもなく、疲労も溜め難いのではないのだろうか。動作自体は好いとは言えないが、極端ではないので心配するほどではないだろうということ。

<実戦的な術> 
☆☆☆★ 3.5

 「着地」までの粘りはそこそこで、ボールの出どころも隠せている。そのため見えないところから、ピュッと出てくる感覚には陥るのではないのだろうか。むしろフォームの進化よりも、投げミスの少ないコントロールや、球速が格段に上がった方が大きいのではないのだろうか。

 気になるのは、振り下ろした腕が身体に絡んで来ない点。これは以前からそうで、どうしてもボールを置きに来るような感じにみえる。それでもこれだけの三振が奪えるのは、むしろ驚きにも値する。またボールには適度に体重を乗せてからリリースできており、打者の手元までのボールの質は上がったのではないのだろうか。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、どれも大きな欠点は見当たらない。昨年からの進化は、「着地」までの粘りが出てきたことでタイミングが合わせ難かったことと、「体重移動」が良くなりそれが大幅な球速UPに繋がったのではないのだろうか。

 また身体を捻り出す時間が増したことで、変化球のキレを増しカットボールのような球を習得しのが有効に作用した。制球を司る動作は昨秋の方が良かった気にするが、それもボールの威力を増したことであまり気にせず投げられたのかもしれない。速球を軸にカットボールやツーシームを中心したピッチングに、うまくフィットした気がするのだ。


(最後に)

 ストレートの威力が増し、カットボールの習得でピッチングの幅は劇的に広がり大きな飛躍に。それまでの伸び悩みが嘘のように、格段の成長を遂げたといえる。ボールの威力・制球力・打たれ難さなどが加味され、アマでやり残したものはないというほどの成績を残した。

 大学生投手でここまでの領域に達したのは、おそらく8球団が競合した 小池 秀郎 (亜細亜大-近鉄)以来の逸材であるのは間違いない。小池の方がボールの勢いやフォームに躍動感は感じられたが、制球力やと総合力では早川の方が上ではないのだろうか。そういった意味では、一年目から二桁どころか15勝近い数字を残しても不思議ではないだろう。現在のNPBのスターターで、早川ほどのボールのを持ったサウスポーは存在しない。このレベルは、おそらく 菊池 雄星 に匹敵すると考えて良さそうだ。そんな彼を、2020年度の目玉クラスと評価することにした。


蔵の評価:
☆☆☆☆☆ (目玉クラス)


(2020年 秋季リーグ戦)









早川 隆久(早稲田大3年)投手 180/73 左/左 (木更津総合出身) 





「訴えてくるものがない」 





 木更津総合時代から、何か私の心に響くものがないのが気になる 早川 隆久 。高校時代から志望届けを提出すれば、上位指名確実だと言われてきた素材。しかしこの3年間の通算成績は、7勝12敗 防御率 3.18 と平凡な成績に終わっている。試合を観ていても、中盤以降に捕まってしまうことも少なくないのだ。


(投球内容)

 けして間が取れないで同じリズムで投げているという感じではないのですが、何か特徴にメリハリを感じません。

ストレート 常時145キロ前後 ~ 140キロ台後半 
☆☆☆★ 3.5

 先発左腕で、コンスタントにこのぐらいの球速を出せれば、上位指名は疑いようがありません。しかし実際の投球を観ていると、何処かボールを置きに来るようなことが多く、球速ほどの勢いが感じられません。打者の外角中心にボールを集めることができ、四死球で自滅する危うさはありません。ヒットを打たれるのを観ていると、甘く入った球を合わされるというよりも、難しい球でもヒットにされている場面が目立ちます。

変化球 スライダー・チェンジアップ・ツーシームなど 
☆☆☆★ 3.5

 大きく曲がりながら沈む、カーブのような軌道のスライダーとのコンビネーション。たまに右打者外角に小さく逃げるツーシームや、縦に沈むチェンジアップなどを使いますが、その頻度は非常に少ないと言えます。どうしても速球とスライダーの単調なコンビネーションに陥りやすく、試合も中盤になると相手に慣れられて攻略されてしまうケースが多いのではないのでしょうか。チェンジアップの落差も悪くないので、もう少し積極的に織り交ぜたいものです。

その他

 クィックは、1.15~1.25秒 ぐらいと、左投手としては平均的。高校時代は、1.05秒前後だったので、あえてフォームのバランスを崩さないことを重視しているのかもしれません。

 牽制も鋭いですし、フィールディングも落ち着いてボールを処理できます。ランナーを出せば、ある程度ボールを長く持って投球をするなど、けして投球センスが悪い選手ではありません。

(投球のまとめ)

 ひとつひとつのボールは素晴らしいのですが、トータルだと上手く結果に結び付けないもどかしさを感じます。特に試合中盤になり捕まるというケースが、非常に多いのは気になる材料。最終学年においては、いかにピッチングの幅を広げて完投勝利を増やせるかがポイントになりそうです。


(投球フォーム)

ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。

<広がる可能性> 
☆☆☆ 3.0

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻はバッテリーライン上に残りがち。しかし重心が沈む込むに段階で、最終的には三塁側(左投手の場合は)に落ちてゆく。そういった意味では、カーブやフォークといった捻り出して投げるボールを投げても、無理は生じ難いのではないのだろうか。

 「着地」までの粘りは平均的で、身体を捻り出す時間は並ぐらい。そのためいろいろな球種を投げられても、武器になるほどの切れや曲がりをするのかは微妙だと言わざるえない。スライダーのキレは悪くないが、将来的に緩急や縦の変化球の取得には苦労が予想される。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆ 4.0

 グラブは最後まで内に抱えられており、外に逃げようとする遠心力を内に留めることができている。そのため左右の軸のブレが小さく、コントロールはつきやすい。足の甲でも地面を捉えることができており、浮き上がろうとする力を抑え込めてはいる。「球持ち」も悪くなく、指先の感覚も悪くはないのだろう。

<故障のリスク> 
☆☆☆★ 3.5

 お尻は最終的には落ちており、またカーブやフォークといった球種が観られないので、肘への負担は少ないと考えられる。しいて気になるとすれば、多少ボールを持った肩が上がりグラブを持った肩が下がっているなど、腕の送り出しには無理は感じられる点。しかしこの部分も、それほど極端ではないので肩への負担にナーバスになるほどではない。

 またけして力投派ではないので、疲労を溜めやすいタイプではない。そのためフォームを崩して、普段と違う部分を痛めるという危険性も少なそうだ。

<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りは平凡なので、打者としては苦になるフォームではない。それでもボールの出どころは隠せており、甘く入らなければ痛手は喰らい難いのではないのだろうか。

 振り下ろした腕が身体に絡まず、フォームに勢いが感じられない。このへんが、何か投球に訴えかけて来るものがなく、置きに来る感じがする要因ではないのだろうか。ボールへの体重の乗せも発展途上なので、グッと打者の手元まで迫ってくる勢いや迫力はさほどではない。ボールに、これは!というものが感じられない要因は、腕の振りと体重移動にあるとみた。

(フォームのまとめ)

 フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」においては、「着地」と「体重移動」に課題を残す。ここがもう少し良くなると、ボールの質もも変わってきそう。制球を司る動作に優れ、故障のリスクもさほど高くない。しいて言えば、将来的に武器にできるほどの変化球を習得できるかには疑問が残る。


(最後に)

 絶対的な能力がありながら、最終学年までパッとしないのは、昨年の  森下 暢仁(明治大-広島1位)投手 と良く似た状況かと。問題は、最終学年でどのぐらい目の色が変わり、下級生時代とは違った投球を魅せてくれるかではないのだろうか。

 それでも下級生時代の投球を魅せるだけでも、上位指名(2位以内)での指名は濃厚だと思われます。問題は1位指名を確実にするためには、さらなる進化を望みたいということ。それがないと、なかなかプロで即戦力として活躍するのは厳しいのではないかと思われます。春先から、投球に変化が観られるのか注視して行きたい。


(2019年 秋季リーグ戦)


 








 早川 隆久(木更津総合3年)投手 180/73 左/左





 「何か響いて来るものがない」





 確かに下級生の頃から観てきて、階段を一歩一歩昇って成長してきているのを感じる 早川 隆久 。左投手としては非常にコントロールも安定し、ゲームメイクできるセンスも悪くない。プロ志望届けを提出すれば、3位以内で消えるのではないかと思わせる投手ではあるのだが。しかしどうも彼のピッチングを観ていても、心に響いて来るものがないのである。


(ここに注目!)

 両サイドに投げ分ける安定したコントロールと、ストライクを先行させ自分のペースに相手を引き込むのが上手いピッチングには注目して欲しい。


(投球内容)

セットポジションから、それほど足を引き上げることなく淡々と投げ込んで投球を刻んできます。

ストレート 130キロ台後半~140キロ台前半 
☆☆☆ 3.0

 ボールの力で勝負するというよりは、両サイドにキレの良い球を投げ分けるコーナーワークが自慢。ドラフト候補としては、球威・球速の面が平凡なので、少しでもキレが鈍って来ると簡単に振り切られてしまう怖さがある。そのためプロレベルの打者相手に、振り遅れるぐらいの投球全体のレベルを引き上げるか? ボールの芯を強くしそれを持続できる筋力を養うことが求められる。

 素晴らしいのは、ストレートのコマンドの高さ。両サイドにしっかり投げ分けられるコントロールがあり、ストライク先行でピッチングできる安心感がある。すなわち自分のリズムを作りやすいだけでなく、相手のペースでバッティングさせない。そういったセンスが、この投手にはある。

変化球 スライダー、チェンジアップ、カーブ 
☆☆☆★ 3.5

 スライダーもキレや曲がり幅がすごいわけではないが、しっかりカウントを奪え低めに集められるところは良いところ。とくに右打者内角膝下に、スライダーを食い込ませて三振が取れる術を持っている。

 右打者外角に小さく逃げる、ツーシームようなチェンジアップを持っている。この球も空振りを誘うほどの威力はないものの、しっかりコントロールできているので、両サイドを幅広く使うことができる。たまに余裕があると、緩いカーブを織り交ぜて来る。

決め球に使えるほどの変化球はないが、速球同様にコマンドが高くボール一つ一つの生かし方がうまい。

その他

 牽制は適度に上手く、走者が出ると頻繁に混ぜてきます。走者が出ればしっかり目配せをし、それでいて投球が乱れません。クィックも1.05秒前後でまとめられており、合格レベル。フィールディングも、実に冷静に処理できていました。

(投球のまとめ)

 いまいちだった神宮大会に比べると、ひと冬越えた選抜のデキは良かった。更にそこから夏に向けて、ワンランク実力を引き上げてきた点は素直に評価したい。ただし毎回言うように、何が何でもプロで飯を食いたいという気持ちが、プレーから伝わって来ない。淡々と自分の仕事をこなしている印象で、こういったタイプはもっと内から野球で飯を食いたいのだというものが出てくるまでは、アマで技量を伸ばしてゆく方が得策だろう。

 すでに今の力ならば、1年生から強豪大学の第二戦の先発ぐらいは任せられるぐらいの力量がある。そういった中で、実績・経験を積み上げる中で、自我の目覚めや自覚というものが高まって来ることが期待したい。本当の意味で意識が高い選手ならば、大学を卒業する頃には文句なしの上位指名候補に育っているだろうから。


(成績から考える)

選抜ではフォーム分析を行っているので、残した成績から考えてみたい。この夏の甲子園での成績は

3試合 27回 11安打 4四死球 24三振 防御率 1.00

1,被安打は、イニングの80%以下 ◎

 全国大会なので、被安打のファクターは80%以上に。それでもそんなこと関係なしに、被安打率40.7%は文句なし素晴らしい。

2,四死球は、イニングの1/3以下 ◎

 四死球率は、14.8%と素晴らしく、このコントロールがあれば大学などでも充分苦になく投球を組み立てられるはず。

3,奪三振は、1イニングあたり0.8個以上 ◯

 1イニングあたりの奪三振は、0.89個。先発の基準だけでなく、リリーフの基準を満たそうかと充分な数字。しかし左腕でドラフト上位候補となると、イニング以上の奪三振を奪える選手も少なくない。この辺が、速球・変化球に絶対的なものがなく、基本はコースを突いて打たせてとるタイプなのではないかと思わせる部分。

4,防御率は、1点台以内 ◯

 3試合の防御率は、1.00 と安定している。0点台というほど絶対的なものはないものの、充分にファクターを満たすことができている。ちなみに県大会では、2.15 だったので、むしろ甲子園の方がずっと安定していたことがわかる。

(データからわかること)

 成績からみても、すべてのファクターを満たしていて安定感抜群。ただし奪三振、防御率にみてとれるのは、やはり突き抜けた何かがあるわけではないことが数字のことからも伺える。この辺が、ピッチングに凄みという部分で物足りなさを残す理由ではないのだろうか。


(最後に)

 選抜の頃に比べると、淡白だった着地までの粘りが若干よくなり粘りと体重移動に改善が見られるようになった。また下が使えるようになり、足の甲での地面への押しつけも早くできるようになってきている。この辺が、大学での4年間で更に改善されて来ると、投球にグッと粘りといやらしさが増して来る。この下半身の使い方と股関節の柔軟性を増すことが、今後の大きなテーマではないのだろうか。

 あとは、ゲームメイクできるセンス、安定したコントロールはある。それに加えボールの強さや武器になる球を模索することが、今後の残されたテーマ。それを追求し4年間で身につけることができたらば、卒業する頃にはドラフトの目玉になっていても不思議ではない。あえて彼には、そのぐらいの高い理想を持って取り組んで頂きたい。それが、可能な選手だと期待している。高校からのプロ入りは進めないし、彼も進学を希望しているときく。ここはあえて指名リストに名前を記さず、完成のときを待ちたい。


(2016年夏 甲子園)









早川 隆久(木更津総合3年)投手 179/72 左/左 
 




 「プロの匂いがして来ない」





 神宮大会の時から比べても、明らかに良くなっていた 早川 隆久 。しかし彼の投球を見ていると、高校からプロにという匂いが全くしてこない。私自身そう感じる理由がなんなのかわからなかったのだが、ようやくそのわけがわかった気がする。


(投球内容)

 力みなく投げ込んで来る、実に冷静なマウンド捌きが持ち味。神宮大会では緊張のためかコントロールが定まらなかったが、このセンバツでは持ち味を遺憾なく発揮できた大会だった。

ストレート 130~141キロ

 無駄な動きがなくなり、ボールも手元でピュッと差し込まれる球質。驚くような球威・球速はないものの、安定して両サイドにボールを投げ分けることができている。元々この投手は、枠の中には集められるものの、あまり細かい投げ分けができる投手ではなかった。その辺は、一冬越えてだいぶ良くなってきたのではないのだろうか。

 ただしボールそのものを見ていると、打者の手元まで来ている感じがしません。そのため投球の核になるはずの速球に、訴えかけてくるような「強さ」がないのが気になります。

変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ

 横滑りするスライダーで、カウントを整えるのが特徴。他に、もっと緩いカーブもたまに投げ込んできます。また緒戦であまり見られなかったチェンジアップ系の球を、大阪桐蔭戦では使用。追い込むとこの球を落として、相手の空振りを誘います。まだ絶対的な球種は速球含めてないのですが、それでも上手くボールになる球を振らせるのが上手い。

その他

 牽制は適度に上手く、走者が出ると頻繁に混ぜてきます。走者が出ればしっかり目配せをし、それでいて投球が乱れません。クィックも1.05秒前後でまとめられており、合格レベル。フィールディングも、実に冷静に処理できていました。

(投球のまとめ)

 ゲームメイクできるまとまり、センスを感じさせる投手。コントロールも安定しており、変化球レベルも低くありません。しかし何か これは! という自己主張するような推しの強いものが感じられません。この辺が、高校からプロという匂いを感じさせない投球に繋がっているのではないのでしょうか? その推しとは具体的に何なのか、考えてみました。

(投球フォーム)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。この選手が、ボールの勢いよりもコントロールを重視していることが伺えます。

<広がる可能性> 
☆☆ 2.0

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻を三塁側(左投手の場合)に落とすことができません。すなわち体を捻り出す充分なスペースが確保できず、カーブやフォークといった体を捻りだして投げる球種には適しません。

 また「着地」までに粘りなく足を地面に下ししてしまうので、体を捻り出す時間も不十分。変化球のキレ・曲がりに特徴がなく、将来的にも良い変化球を身につけられるかには不安が残ります。


<ボールの支配> 
☆☆☆★ 3.5

 グラブは最後まで内にしっかり抱えられており、両サイドの投げ分けは安定。足の甲での地面への押し付けは短く、充分に抑えきれてはいません。そのためなのか? 右打者の内角の球は真ん中~低めのゾーンに集められる一方で、外角の球は高めに集まりやすく、そこを打たれるケースが目立ちます。「球持ち」は悪くないのですが、それほど指先の感覚に優れているかは疑問です。

<故障のリスク> 
☆☆★ 2.5

 お尻は落とせないもののカーブを多く投げるわけでもなければ、フォークを投げてくるわけでもないので悲観することはなさそう。

 腕の送り出しには多少無理は感じられるものの、こちらも極端ではないので神経質になることはないのではないかと。しかし登板過多などになった時や、今後フォーク系の球種を身につけたりした時は、体のケアには充分注意して欲しいところ。


<実戦的な術> 
☆☆☆ 3.0

 「着地」までの粘りがないので、打者としては合わせやすいフォーム。それでも体の「開き」は抑えられているので、コースを間違わなければ痛手は食らい難いとは思うのだが・・・。ただしコースを突いていても、外角高めあたりの球は苦になく合わせられる。

 腕はしっかり振れており、速球と変化球の見極めつき難い。何より気になるのは、ボールにしっかり体重が乗せられておらず、打者の手元まで生きた球が行かない。彼の投球にプロの匂いがしてこない最大の理由は、この打者の手元まで来ない速球の質、フォームに原因があるのではないかと考える。


(フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」では、「着地」と「体重移動」に課題がある。すなわち、ストレートの質に大きく影響する箇所になる。

 故障のリスクはけして低いとは言えない点と、足の甲の押し付けが短いのも気になる材料。まだまだ実戦派と言う割には、技術的には課題を残している。


(最後に)

 プロの匂いを感じないのは、「体重移動」が不十分で、前に乗っていかないため。そしてそれが、自己主張に乏しい、打者の手元まで生きた球が行かない要因になっているのではないかということ。

 また「着地」の粘りの無さやお尻が落とせないフォームのために、投球の幅を広げてゆくことにも不安が残る。特に圧倒的な球威・球速、あるいは将来的な上積みが期待できるポテンシャルの高さで勝負する素材ではないだけに、まずは大学などで様子を観るべきでは? そんな気がしてならない。

 彼レベルであれば、大学からも引き手数多だろうから、しっかり育成してくれる環境を選んで欲しい。上手く行けば4年後は実戦派左腕として、上位指名も期待できるかもしれない。そういった「旬」の時期に、プロ入りを決断して欲しい。個人的には、高校からのプロ入りはオススメしない。



(2016年 センバツ)










早川 隆久(木更津総合2年)投手の下級生レポート(無料)