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屋宜 照悟(JX-ENEOS)投手 178/79 右/左 (国士舘大出身) |
「確かに速くなっている」
春先のスポニチ大会で見た時は、常時135~140キロ前半。国士舘大時代に見た時でも130キロ台後半~140キロ台中盤ぐらいまで。そんな 屋宜 照悟 が、シーズン中から140キロ台後半を連発しているとの噂を耳にしていた。しかし屋宜は、私が見に行く企業チーム相手では殆ど登板せず、その多くはクラブチーム相手などチームでの信頼はイマイチだった。そんな彼が一躍大役を任せられるようになったのは、日ハムにドラフト指名されてから。見事秋の日本選手権優勝に、大きく貢献して有終の美を飾ってみせた。
(これまでの屋宜)
大学時代や社会人に入ってからの屋宜は、中背の体型から確かに140キロ台を超えるようなボールを投げていた。しかし速球とスライダーを中心とした投球に奥深さは感じられず、ドラフト候補として気に留めるような存在ではなかった。
(日本選手権での投球)
そんな屋宜だったが、確かに大きく変貌を遂げていた。
ストレート 常時140キロ台~MAX149キロ
これまでの屋宜は、ストレートを投げていても上背がなく球速ほど存在感のないボールを投げていた。更にフォームもオーソドックスなため、ボールに怖さが感じられない。しかしこれが、コンスタントに145キロ前後出るようになり、力を入れたボールは150キロ近い。こうなって来るとボールの勢いもあり、高めの球でも空振りを誘えるようになる。
また、かなり打者の内角を厳しく突くことで、ランナーを背負ったら内野ゴロを打たせる技術を身につけてきた。時々真ん中近辺に甘く入る球はあるが、今のボールの勢いがあれば社会人レベルではそうは打たれまい。
変化球 スライダー・フォーク
カウントを稼ぐスライダーが、曲がりながら落ちる軌道でちょっとチェンジアップのような曲がりになっている。そのため打者も、この球を容易に捉えることができない。更に投球の中にフォークのような落差のある縦の変化を加えることで、普段は両サイドに散らす配球ながら、打者は高低も意識しなくてはならなくなり的を絞り切れない。
その他
クィックに関しては、1.1~1.2秒ぐらいと基準レベル。牽制も、走者の出足を鈍らせるぐらいの鋭さは持っている。特にフィールディングは、最初の一歩目が早く素早くマウンドを駆け下りて来るなど、動きの良さが目立った。投球以外の部分でも、大きな欠点は感じられない。
(投球のまとめ)
元々投球の底の浅さを感じさせたのは、単調な配球だけでなく「間」を意識するような投球術、微妙なコースを突くような繊細さがなかったのもあったのだろう。今でもそういったセンスは、感じられない。
しかし内角を厳しく突けるようになり、縦の変化も投球に加わることで攻めのバリエーションが格段に向上。これにより、相手打者は的を絞ることができない。更に全体的レベルアップするなど、社会人2年目にして大きくその資質を伸ばすことに成功している。
(投球フォーム)
今度は、フォームの観点から彼の可能性について考えてみたい。ランナーがいなくても、セットポジションで投げ込んできます。足をスッと引き上げるのですが、軸足一本で立った時に、膝から上がピンと伸びきってしまい、直立して立ってしまうのが気になります。こうなるとバランスを整えるために、余計な力が入ったり身体が前に突っ込みやすい弊害が生まれます。
<広がる可能性> ☆☆
引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻は一塁側へには落とせません。そのため元来カーブやフォークなどの球種には適しませんが、縦の変化は多く織り交ぜてきます。
「着地」までの粘りもないので、好い変化球を操るのは難しいフォームです。それでもスライダーの切れ・フォークなどの縦の変化も、けして悪くはありません。その辺は、腕をかなり強く振ることで、切れを補っている部分があります。今後さらにピッチングを幅を広げて行ったり、空振りを誘えるような変化球を身につけられるのかは微妙だと言わざるえません。
<ボールの支配> ☆☆
グラブを最後まで内に抱えられていないので、両サイドへの制球はアバウト。普段は適度に散っているのですが、時々甘い球もありドキッとします。それでも社会人レベルならば、今の勢いがあれば力で押し切れています。
足の甲の地面への押しつけも遅いので、ボールが上吊る傾向が強いです。ただスライダーやフォークは真ん中~低めのゾーンに集まるので、かえって高めに勢いのあるストレート・低めに変化球で相手打者の的を絞らせない配球になっています。細かいコントロールはありませんが、今のところ上手くボールが散らばっています。
<故障のリスク> ☆☆
お尻を落とせない割に、縦の変化を多く織り交ぜるので肘への負担は大きいでしょう。更に振り下ろす腕の角度にも多少無理があるので、肩への負担も考えられます。リリーフなどで多くの登板をすると疲労が蓄積しやすいのと、そこから故障につながる危険性は否定できません。
<実戦的な術> ☆☆☆
「着地」までの粘りが浅いので、身体の「開き」が早くなりがちでボールの出所は見やすいフォーム。また踏み出した足も少しアウトステップ気味に開き気味なので、余計に「開き」を助長しています。かつて投球が一辺倒に見えたのは、この粘りのないフォームと開きの早さからではないのでしょうか。
ただ振り下ろす腕の振りは素晴らしく、身体に力強く絡んできます。この腕の振りが変化球の切れを生み出し、「開き」が早くても速球と変化球の見極めを難しくしている要因だと考えられます。更にボールに体重は乗せらているので、「着地」の粘りが浅く体重移動が不十分なはずなのに、打者の手元まで勢いの落ちない伸びのある球を実現できています。
(投球フォームのまとめ)
投球の4大動作である「着地」「開き」などに課題があり、球速ほど打者が苦にする球かは疑問が残ります。それでも「球持ち」は平均的で、「体重移動」に関してはフィニッシュまで力強くつなげることが出来ています。ボールは見やすくても、それ上回るボールの勢いを実現できており、それが相手を抑え込める大きな原動力になっています。
すなわち今のような常時145キロ前後~150キロ級のボールの勢いがあれば、他の粗を誤魔化すことができます。しかしそれができなくなった時に、一気に抑えられなくなる可能性は否定できません。
(最後に)
大卒の社会人2年目という肉体的な成長期を終えたあとに、確実に投球の幅を広げパワーアップにも成功している点からも意識の高さが感じられます。
ボールの勢いも本物になってきており、短いイニングならば勢いで一年目からソコソコ通用するのではないのでしょうか。ドラフト六位での指名も考えると、結構面白い指名であるように思います。長く戦力になるのかは疑問ですが、この勢いをプロでもぶつけることができれば、指名順位以上の活躍を期待できそうです。指名リストにも、名前をつらねてみたい一人。最後の最後で、その成長を確認できて良かったと思わせてくれる投手でした。
蔵の評価:☆☆
(2012年 日本選手権)
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