12kp-7
大谷 翔平(花巻東)投手 193/86 右/左 (最終寸評へ) |
「野球に専念できる環境へ」
今日 大谷 翔平 は、アメリカで野球を続けるのか、日本でのプレーを希望するのか発表すると言う。私が彼に考えてもらいたいのは、できるだけ野球だけに専念できる環境に進むべきだということ。彼のように、精神的にも課題を抱える選手は、極力野球以外のことに神経を使って欲しくないと思うから。
(この夏の 大谷 翔平)
彼が、岩手大会で160キロを記録した試合。これは、大谷が投げ込んだ、いや今まで見たどのアマチュア選手が投げ込んだ球よりも、凄みを感じる球だった。この160キロを記録した打者相手には、みるみる160キロに近づき、最後に160キロまで到達したといった感じだった。昨夏~選抜までは、目に見えての大きな成長は感じられなかったが、選抜~最後の夏までの間には、明らかな成長が感じられる。
ただ彼のベストピッチと呼べる試合は、この試合ではない。私が見た試合の中では、U-18の世界選手権・順位を決定づける韓国戦でのピッチングではなかったのだろうか。この試合こそ、現状の大谷の集大成であったように思えてならない。
(投球内容)
ゆったりと振りかぶり、けして力むことなく投げ込んできます。彼にとっては、150キロ台のストレートも、けして無理して投げているボールではありません。
ストレート 常時140キロ台後半~MAX155キロ
それでも大谷は、この試合で150キロ超えを連発します。無理しなくてもこの球速帯の球が投げられるのは、同じ大会でMAX153キロを記録した 藤浪 晋太郎(大阪桐蔭)よりも、ワンランクスピード能力では秀でていることを示します。不思議と藤浪の球が自己主張しない心に響かない球なのに対し、無理しなくても大谷の球は心に突き刺さります。そして本当に力を入れた時こそが、岩手大会の150キロ台後半~MAX160キロの、未だかつて見たことのないような球が唸りをあげます。ことストレートの質に関しては、藤浪より明らかに上です。
またこの韓国戦では、内角へのコントロールには甘さが残ったものの、外角に投げるという意味ではキッチリコントロールされていました。そういった意味では、平常時のコントロールは悪くはありません。
変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ
選抜ぐらいまでは、結構チェンジアップを使って空振りを取っていましたが、この夏はあまり目立ちませんでした。また大きなカーブで、緩急を効かせることも出来ています。多少腕が緩むことがありますが、カーブのブレーキも悪くなく、相手の目先を変えることが出来ています。
むしろ圧倒的に、外角低めに鋭く切れ込むスライダーを武器にしたピッチング。この球で空振りを誘う場面が、韓国戦でも目立ちました。ただ平常心で投げている時のスライダーは良いのですが、少しでも力を入れて投げようとすると、肘が下がり押し出すような感じの球になります。そして早く大きく曲がり過ぎて、明らかなボール球になるのです。またそれまでキッチリコーナーに集まっていた球が、高めに甘く入ることになります。大谷の詰めの甘さは、まさにこの時に生じます。
その他
牽制も、ランナーを目で威嚇するだけでなく、ファーストまで150キロは出ているのではないかと言うほど素早い球を投げます。クィックも1.1秒台~1.3秒台の間にまとめられ、けして大きな欠点はありません。また190センチ台の体格とは思えないぐらい、素早くマウンドを駆け下りてボールを処理します。投球以外の部分でも、この選手の並外れた身体能力を感じさせます。
(投球のまとめ)
大谷は、普段はコースにボールを投げ分けることができ、ボール球を振らせられるようとします。けしてコントロールが悪い投手でも、ピッチングが下手な投手でもありません。しかし簡単にアウトを取れたかと思ったら、突然四球を出してみたり、力んで甘く入ったりと、精神的なムラが試合の中で必ず顔を覗かせます。
この選手の投球の課題は、ボールそのものでもコントロールでもなく、いかに平常心でムラのない投球が出来るのか、その一点に尽きます。必ず試合の中では、そういった危うい場面が見られます。しかしその時に踏ん張れるのか、踏ん張れず一気に失点を食らってしまうのかと言われると、現状は後者のケースが多いわけです。そういう勝負どころでの精神面の弱さが、藤浪との結果の差に現れています。
そのムラみたいなものを、今後の野球人生でいかに減らして行けるのかが、この選手の生涯通しての課題ではないかと考えます。
(投球フォーム)
選抜のレポートの際には、フォーム分析を行いませんでした。そこで今回は、あえて行なってみたいと思います。
<広がる可能性> ☆☆
引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、基本的にお尻は一塁側に落とせません。これにより腕の振りが緩まないようなカーブや、縦に鋭く落ちるフォークのような球は投げ難いはずです。実際カーブを投げるときも、この腕の振りが鈍くなるので、あまり多投すると見切られてしまいます。
「着地」までの粘りも平均的なので、それほど絶対的な変化球を身につけるのは厳しいでしょう。ただ腕の振りが尋常ではないので、逆にスライダーの曲がり過ぎてしまい制御できません。これは、腕の振りが早すぎる投手に見られる傾向なので、彼もカットボールなどを覚えて、上手くカウントを取れる球種を身につけるべきです。現状は、スライダーやチェンジアップなど、球速のある変化球を中心に、投球を組み立てて行くタイプだと考えられます。逆に言えば緩急・縦の変化の習得は、今後も厳しいのではないかと考えます。
<ボールの支配> ☆☆☆☆
グラブは最後まで身体の近くに抱えられ、両サイドへの投げ分けは安定。足の甲でも地面を押し付けることができており、高めに抜ける球は多くありません。特に大谷の素晴らしいところは、低めに良い球が決められるところです。
ただ「球持ち」は平均的で、指先の感覚はよくありません。そのためボールのバラつきが顕著なのは、このリリースの不安定さにあります。ただこの辺は、身体ができてゆく過程で、改善できる部分だと考えます。
<故障のリスク> ☆☆☆
お尻が落とせない割にカーブを投げるので、肘への負担は小さくありません。しかしそれほど多くは投げませんし、普段は力投派ではないので、身体への負担は少ないと考えられます。
腕の角度もスリークオーター気味で、肩への負担は少ないはず。そう考えると、今後も故障の可能性は低いはず。高校の三年間は、満身創痍で殆どまともに投げられた時がありませんでした。しかしそれは、あくまでも故障しやすい体質というよりも、成長痛から来る部分が大きかったように思います。
<実戦的な術> ☆☆☆
「着地」までの粘りは平均的で、身体の「開き」も並といった感じ。そのため打者としては、けして苦になるほどのフォームではありません。
しかし腕は鋭く身体に絡みつくように、速球と変化球との見極めは困難。体重移動も発展途上で、まだまだボールに完全に体重を乗せ切れているわけではありません。今後更に、球速・ボールの質を向上させて行くことは期待できそうです。
(投球フォームのまとめ)
投球の4大動作である「着地」「球持ち」「体重移動」「開き」などの観点で見ても、どれも平均的で特に優れた点も極端に劣っている点もありません。
それだけ完成されている投手ではありませんし、更に伸び代が残されているとも考えられます。先輩の菊池雄星が戸惑ったのは、こういった実戦的な技術に課題がありました。大谷は技術的に優れているとは言えませんが、大きな欠点もないので素直に肉付けすれば、それが結果になって現れやすい投手だと言えるでしょう。
(最後に)
これだけの球速・パフォーマンスを示しても、まだ肉体的にも技術的にも伸び代を残しているところは素晴らしいです。私がこれまで見たどの選手よりも「器」が大きいと指摘するのはこういった部分。
ただこの「器」は、非常に大きい分、脆く壊れやすい素材で出来ているように思います。その脆さは、彼を知っている誰しもが心配している点でしょう。実際最後の夏を見ても、その疑問は払拭されませんでした。
この脆さの要因は、言わずと知れた精神的な部分であり、肉体の弱さからではありません。それゆえにより精神的な負担が大きい海外での生活は、野球環境の違い、言葉の違い、食生活の違い、助けてくれる仲間の欠如、移動環境の違いなど、日本で野球を続けるよりも、遥かに過酷な条件が揃っていると言わざる得ません。
もし藤浪晋太郎が海外でプレーをしたいと言っているのならば、それもありかなと思います。しかし大谷のように精神面で不安を感じる選手に関しては、極力野球以外の負担は軽減した方が得策だと私は考えます。私はまずは国内で実績を積んで、それから海外を目指すべきだと考えます。海外でいきなりコケれば、今後は海外でのチャンスも減るだけでなく、今の制度では日本での復帰も閉ざされます。器が強く固まるまでは、国内で野球人としての土台を固めるべきでしょう。
ただ「器」の大きさは、今までの日本球界にないサイズ。まだ不安定さは感じますが、ダルビッシュ有を超える才能持ち主。今年唯一の最高評価を彼に下すのは、当然というべきでしょう。この評価は、彼がどんな進路を選択し今後大成しようとしまいと、けして私の中で変わることはありません。恐らく今後彼を超える器に、私はもう出会うことはないでしょう。
蔵の評価:☆☆☆☆☆
(2012年 夏)
|
大谷 翔平(花巻東3年)投手 193/86 右/左 (野手編) |
「そこに愛はあるのか?」
ドラフトの目玉と期待された 大谷 翔平 の選抜初登板。しかしその内容は、久々の公式戦で、制球が定まらず期待ほどの内容を示せなかった。むしろ 同じドラフト上位候補である 藤浪 晋太郎(大阪桐蔭)から放ったホームランで、一躍打者としての評価が上がっているという。そこで今回は、打者 大谷 翔平 の可能性を模索してみたい。
(打者大谷をどこで使う?)
仮に彼を打者として想定した場合、何処のポジションで使おうというのか? 193センチの体格とは思えない俊敏なフィールディングを魅せるが、やはり二遊間としては厳しいだろう。そう考えると、内野ならば三塁か一塁。もしくは、強肩を生かして外野手ということになる。
(本当に長距離打者なのか?)
もし一塁・三塁・外野手として考えるならば、相当な打力が求められるだろう。確かに大谷は打者としても、私は高いものがあることは認める。ただ彼は肩が強くても、足を生かすプレーはしてこなかった。怪我が多く無理な走塁は控えてきたのだろうし、実際どの程度の走力があるのかはわからない。
そう動けないとを想定するならば、彼には長距離打者としての可能性があると評価しなければ、野手としての意味合いは薄い。では、新チーム結成以後の成績はというと
16試合 25打数 12安打 9打点 2塁打1 3塁打1 本塁打0 打率.480厘
勿論サンプルとしては打席数が少ないことは重々承知だが、彼が生粋のスラッガーと考えるのは、実際のプレー同様に難しいのではないかと、この数字からも考えられる。藤浪級のスピードにも全く動じない動体視力と対応力の高さがあるのは確かだが、下級生の時からのバッティングも含めて、私にはスラッガーには思えない。
独特の懐の深さがあり対応力もあるし、身体の強さが投手は半端ではないので、ツボにハマレバ飛距離も出る。しかし投手としても非凡な才能を持っていた 中田 翔(大阪桐蔭-日ハム)と同列に扱うのは、私は大きな間違いだと考える。彼は150キロのストレートを投げようとも、天性のスラッガーだったから。
スライダーを払うようなスイングでスタンドインさせた彼のスイングに、スラッガーのそれを感じることは出来なかった。
(打撃フォーム)
いくらイメージで語っていてもしょうがないので、技術的な観点から述べてみたい。
<構え> ☆☆☆☆
スクエアスタンスで、グリップの高さは平均的。腰の据わり具合・両目で前を見据える姿勢・全体のバランスも取れ、非常に良い構えだと思う。特に懐を深く保ちつつ、打席でもリラックス出来ている点は素晴らしい。
<仕掛け> 平均的な仕掛け
投手の重心が沈み込んだあたりで始動する「平均的な仕掛け」を採用。この仕掛けは、ある程度の対応力と長打力を兼ね備えた 勝負強さを売りにする打者が採用するスタイル。彼の仕掛けをみると、典型的な中距離打者の始動なのだ。ただそれを観て、私は驚かない、元々彼は中距離打者だと思っていたから。
<足の運び> ☆☆☆☆
足を軽く引き上げ、真っ直ぐ踏み込んで来る。内角でも外角でも捌きたいという、彼の意志が感じられる。第一打席では、外角のスライダーをライトスタンドに運んだ。第三打席では、外角の高めのストレートを強烈なサードライナーで打ち返した。このことが、彼の幅広い打撃を裏付ける。
実際踏み込んだ足下も、インパンクトの際にブレずにスイング。外の球でも、開かず捌くことができている。狙い球を絞って引きつけて叩くというよりは、幅広く打ち返すことを重視しているスタイルなのだ。こういった打者に、長距離打者はいない。
<リストワーク> ☆☆☆
早めに打撃の準備である、「トップ」の形は作れている。バットの振り出しは平均的で、それほどスイングの弧を大きくとってバットのしなりを生かしたり、フォロースルーを使ってボールを遠くに運んでいるわけではない。そのスイングからも、金属バットの反発力と非凡な体幹の強さでボールを飛ばしているだけで、これがイコールプロの長距離砲につながるわけではないと考える。
技術的にも特に優れているわけではなく、むしろこの内容で非凡な打撃を魅せるところに、彼の潜在能力の高さが感じられる。ただそれだからといって、何か特別なミートセンスを感じるわけではない。
<軸> ☆☆☆☆
足の上げ下げは静かで、目線は安定しています。身体の開きも我慢でき、軸足を起点に綺麗に回転して打てています。
(打撃フォームのまとめ)
投手ですが、技術的にもしっかりしたものを持っています。もう少し上半身の使い方を覚えれば、打者としての資質もまだまだ伸びるでしょう。
(ただ・・・)
彼自身、打撃は好きなのでしょう。しかしあくまでもそれは、ピッチングの重圧から解放されるからであって、自分を打者としては考えていないからだと思います。
打席に入るまでの仕草を観ていても、投手らしくバッターボックスのラインを踏まないような細やかさは感じられます。しかし素振りなどを観ていても、特にチェックポイントを決めて振っているわけではなく、身体をほぐす意味のルーティンの一環でしかないように思えます。バッターボックスの足場の馴らしも乏しく、打撃へのこだわりや意識は、少なくても現時点では高くありません。少なくても投球に傾けるような情熱は、打撃からは感じられませんでした。本人に打者として勝負するという意識は、毛頭ないのだと思います。
(最後に)
これらのことを考慮して考えると、高校を卒業して野手に専念するという選択肢は、ありえないと私は考えます。また周りが抱く期待に応えるような、長距離打者の資質にも疑問を持ちます。その理由と致しましては
1,仕掛けが中距離打者
2,ボールの絞り込みをせず、幅広く打ちに行く打撃スタイル
3,バットをしならせたり、フォロースルーで遠くに運ぶようなスイングをしない
4,長距離打者に不可欠な、内もも に特別な強さが感じられない
5,統一球でよりハッキリした 右投げ左打ちであるということ
などの理由からは、私は彼が打者として大成しても、2割8分 20本級 ぐらいまでの選手にしかならないと考えます。投手としての可能性ならば、ダルビッシュ以上のストレートを投げられる資質があるだけに、球界のエースの成り得る素材を、一打者としての才能と天秤にかけたら、明らかに投手だと判断するからです。
もし彼が野手に専念するとするならば、それは投手としての可能性が見出せなくなった時としか考えられません。私には、上田 佳範(松商学園-日ハム-中日)選手を、一回りスケールアップさせた野手にしか見えません。大谷 翔平 は、投手だと断言いたします!
(2012年 選抜)
|
大谷 翔平(花巻東)投手 193/86 右/左 (選抜編) |
「大石 達也(早大-西武)とダブらないわけではないが」 物凄い才能を持ちながら、怪我や不調で滅多にその才能を示せないところは、何処と無く上級生になった頃の 大石 達也 とダブルものがある。特にマウンドでの仕草に、危機感が感じられないところも、大石の学生時代とよく似ている。ただ純粋に野球人としての器からすれば、大石を遥かに凌駕し、あの ダルビッシュ有 をも凌ぐ才能の持ち主だろう。今回の選抜を見ても、改めてそのことは強く実感した。 (投球内容) 確かに選抜の大阪桐蔭戦では、ボールのバラツキも顕著で収まりの悪い投球だった。しかし怪我のため、秋から練習試合にも登板せず。ブルペンに入ったのは、あの寒い岩手での1月だという。常識的に考えれば、まだ実戦に入れるような季節ではない環境。それでも選抜出場を決め急ピッチで仕上げ、練習試合では圧倒的な内容を示したという。 しかしそれは、夏の甲子園以来の実戦登板。相手は全国屈指の重量打線を誇る大阪桐蔭、それも甲子園でのマウンド。それでも5回まではなんとか凌ぐものの、グランド整備が終わった6回、心身共に疲れが見え始めた大谷に、桐蔭打線は襲いかかる。まして味方のミスも重なり、完全に彼の集中力の糸は途切れた。 ストレート 140~148キロ 昨年の春の練習試合では、151キロを記録したという。今回の選抜では、MAX148キロまで回復。特に小さめテイクバックと腕のしなりの素晴らしさから繰り出すストレートの質という意味では、素晴らしい伸びのある球を投げていた。素直にフォーシームの素晴らしさという意味では、選抜でここまで素晴らしい球を投げた投手は、今までいなかったのではないのだろうか。ただその球が、しっかりストライクゾーンに収まらなかったのが誠に残念。特に2イニング目の球の勢いは逸脱で、間違いなく松坂大輔やダルビッシュ有の3年春当時のストレートを凌駕していたといえよう。これでもベストな状態とは言えなかったことを考えると、この選手の持っているポテンシャルは、計り知れない。このままフォーシームを更に磨けば、ストレートに関してはダルビッシュより上のストレートを身につけるはずだ。 変化球 スライダー・チェンジアップなど 昨夏観た時からの成長は、曲がりが大きすぎたスライダーが、体の近くで鋭く曲がる、実戦的なものになってきたこと。速球のおさえは効かなかったが、スライダーの精度はむしろ上がっていたように思える。更にチェンジアップ気味に沈む球でも空振りを誘えており、上手く速球と変化球のコンビネーションがまとめられるようになれば、手がつけられない領域に到達するのではないか。そんな淡い期待を、私抱いてみていた。 その他 あまり甲子園では鋭い牽制が見らなかったが、昨夏の岩手予選では一塁へも150キロ出ているのではないか?と思わせるぐらいの物凄い牽制を投げていた(笑)。逆に大型で緩慢に見えたフィールディングが、この試合では素早くマウンドを駆け下り、193センチとは思えない素早い送球を見せて私を驚かせた。ただクィックに関しては、昨夏は1.1~1.2秒の基準レベルで投げ込んでいたのを、この大会では1.2~1.3秒ぐらいと、やや遅くなっていたのは、正直気になった。それだけランナーへの意識を無くし、打者に集中しようという投球に、彼自身の意識が変わってきたのではないのだろうか? (投球のまとめ) 大谷良い時のバロメーターは、低めにストレートが集まること。それが抜けたりボールになったりして、ボールの走りはともかく、制球に関しては抑えが効かなかったことは明らかだった。これが、練習試合と公式戦でのマウンドの違いだろう。 夏の岩手予選では、思い通りな投球ができず苛立つ場面が拝見できた。その一方で、甲子園では思い通りの投球ができない中でも、粘り強く最後まで投げ切った。一体どちらが、彼の本当の姿なのか?私自身、掴みそこねていた。ただこの試合でも、悪いなりに5回までは無失点で切り抜ける。しかし疲れや味方のエラーをきっかけに、6回から一気に崩れ出した。やはり平常心が保てない状況になるとガタガタと崩れだす、精神面の脆さが同居した投手なのだと改めて実感。 速球の走り自体は、現在の彼の状態からすれば、このぐらいなのだろう。ただコントロールが、本来の彼のモノではなかった気がする。そんな中、スライダーやチェンジアップなどが体の近くで、小さく鋭く曲がり実戦的になってきた。これに関しては、昨年からの大きな成長。実際試合でも、三振の多くは変化球で奪っている。 (しかし・・・) 今回の制球が乱れた投球に関しては、私は大した問題ではないと捉えている。元々精神的に不安定な投手だというのも理解していたし、これだけの悪条件が揃う中、変化球の成長。ストレートの走りという意味では、元来の才能を示すことができたから。 ただ大谷を見てきて思うのは、あまり才能が図抜けていて、プレーそのものに危機感が感じられないこと。そして藤浪の時にも書いたが、下級生頃から積み上げてきたものの片鱗が、殆ど感じられないことにある。調子の好不調に関わらず、何かしら努力してきた形というのは、半年もの期間があれば感じられるのが高校生。しかしどうだろう?すでに2年春には、151キロの球速を叩き出していた投手ならば、更にその上の球速・キレ・マウンド捌きの成長、何かしら感じさせてくれても良いのではないのだろうか? あくまでも今回は、下級生の時の良い時に、どのぐらい近づいたかという程度だった。それでも150キロを記録した昨夏の甲子園の内容よりは、遥かに良い投球だったのだと思うのだが・・・。 (最後に) 見ている人が、あまりに大谷対する期待も高すぎたのかな?と思えてくる。まるでプロの一流投手の投球と比較するような目線で論じる人が、あまりに多いのでは? 冷静に3年春のプロで超一流になっていった先輩たちの投球を振り返ると、遥かに今回の大谷や藤浪との投球より劣るものだったと記憶する。 ただ私も含めて彼に期待するものは、世代屈指いや今ドラフトNO.1投手としての投球。この状況から立て直し、夏には文句なしの内容を示すことが、最高の評価には不可欠だといえよう。ベストな形で最後の夏を終えることができるのか?それによって、私の評価も変わってくる。才能は間違いなく、日本アマチュア史上でも屈指の素材。ただそれを活かす殺すも、彼のハート次第であるということ。その部分を、最後の夏に見極めてみたい。 蔵の評価:☆☆☆☆ (2012年 選抜) |
大谷 翔平(花巻東)投手 191/76 右/左 |
「ストレートはダルより上!」 ダルビッシュ有の高校時代よりも、大谷翔平のストレートの方が、上だと評価する。とにかく指先まで引っかかったストレートは、ピストルの弾丸のようにスパ~ンと捕手のミットに突き刺さる。夏の岩手県大会・久慈東高戦、まだ太腿裏の違和感が消えない状況での登板だったが、その非凡さは垣間見られた。ダルビッシュより上だというのは、球速云々ではなく球の質という意味で、高校時代のダルをすでに上回っていると評価する。 (投球内容) この日の投球は、夏の大会初登板での場面。1回2/3イニングを、2安打・4失点 と調整不足は否めなかった。しかしそれは、ストレートの勢いよりも、変化球のコントロールに課題を残す形。あるいは、味方のエラーで波に乗れなかったなど、その数字ほど悲観する内容ではなかった。ただ2イニング目となった7回での登板では、明らかにボールの勢いも失速し、痛みが悪化していたのは明らかだった。 ストレート この日のMAXは142キロ 春の練習試合では、151キロを記録。甲子園でも痛々しい投球でも、150キロを記録してみせた。しかしこの日は、常時145キロ以上は出ていそうに見えたのだが、MAXが142キロと聞いてビックリした。ただ大谷の素晴らしいのは、その球速以上に感じさせる体感速度の速さ。すなわち、球質の素晴らしさにある。 変化球 スライダー・カットボール・フォーク(チェンジアップ)・ツーシームなどなど かなり球種は、多彩なのではないのだろうか。特に腕の振りが素晴らしいので、逆に変化球が打者の手前で曲がり過ぎてしまう。この球が、体の近くで曲がるようになったら大変なことになると思うのだが、まだまだ上手くコントロールできていない。むしろ少し曲がりを小さくしたカットボールやスピリット気味のちょっとした変化に変えた方が、彼の変化球は生きるのかもしれない。 その他 フィールディングは、大きな体もあり、それほど俊敏ではない。ただ落ち着いてボールは処理できていた。クィックは、1.15~1.20秒以内と、ほぼ基準レベル。何より驚きだったのが、一塁への牽制も150キロ出ているのではないかと思わせるほどの素早さ。ただ早く投げることを意識しすぎて、制球を見出し一塁手が取れなかった・・・。 (投球のまとめ) ストレートの勢い・球質、曲がり過ぎるぐらいの大きな変化をする変化球。こういった一つ一つの球を見ていれば、ちょっと今まで観たことのないぐらいのスケールを秘めた投手であることは間違いない。 普段は飄々と投げている感じはしたのだが、味方のエラーに苛立ったのか、思い通り投げられない自分に腹が立ったのか、思いの他、冷静さを欠いた投球となった。そういった気持ちのムラは明らかであり、セルフコントロールは、今後の大いなる課題。 ただ甲子園では逆に、遥かにこの試合よりも球が行かない状況のなか、最後まで投げきる粘り強さを垣間見せた。一体どちらが、彼の本当の姿なのだろう。いずれにしても、精神的な部分では、その球とは裏腹に未成熟な投手といった印象は否めない。その辺が、最終学年において成長しているのか、選抜では注目してみたい。 (投球フォーム) ワインドアップで振りかぶり、淡々と投げ込んできます。それほどフォームの力加減に抑揚はなく、まだまだ力の入れどころと抜きどころはわかっていないのかなという気は致しました。 <広がる可能性> 引き上げた足を、地面に向けて伸ばしてきます。そのため腕の緩まないカーブで緩急をつけたり、縦に鋭く落ちるフォークのような球種は向きません。しかし縦に大きく落ちる球がチェンジアップではなくフォークだったとしたら、実際結構投げ込んできます(縦スラではないと思うが)ので、体への負担は小さくないはず。 ただ「着地」までに、前に大きくステップさせ時間を稼げるので、そういった球種以外の球に関しては、どんどん修得して、自分ものにできるだけの下地があります。 <ボールの支配> これだけ大型の選手なのですが、グラブを最後まで内に抱えることで、両サイドへ投げ分けます。足の甲の地面への押しつけも深く、この体格でこれだけ下半身が使えるという驚きは、ダルビッシュ以上だと言えます。まだボールが高めに抜けることも多いのですが、「球持ち」もよく指先にボールがかかっています。将来的には、速球派にして、制球も安定した本格派に育つのではないのでしょうか。 <故障のリスク> 先にも述べたように、お尻が落とせない割に縦の変化も多く投げます。そういった意味では、体への負担も少なくありません。ただ降り下ろす腕の角度には無理がないので、肩への負担は少なそう。ただどうも故障しているのは、肘や肩といった腕ではなく、大きなステップをして深く沈める下半身などにあり、必要以上に腰から下に負担がかかるフォームなのかもしれません。それを今後、何処まで強化できているのか注目したいと思います。 <実戦的な術> 「着地」までの粘りがあるので、打者としては合わせやすいフォームではありません。更に190センチを越える長身から投げ下ろされるので、当然打者は目線が上がり角度を感じます。それだけ実際の感覚とはズレが生じ、打ち損じも増えてきます。また体の「開き」も平均的で、球筋を見極めやすいわけではありません。更に想像以上に伸びてくる彼の球質もまた、打者としてはタイミングが狂わされます。 何より驚いたのが、振り下ろした腕の体への絡み方です。ここまで体に巻き付いてくるような選手は、今までほとんど観たことがありません。腕の角度が適正であり「球持ち」が素晴らしいことの証です。ただ足の故障のせいもあったのでしょう、「体重移動」は平均的で、充分にボールを乗せきれてはいませんでした。このへんが改善されているようだと、選抜ではドえらい球を投げ込んでくる可能性があります。 (投球フォームのまとめ) ダルのフォーム分析をした時も、190センチを越える体格なのに、物凄く理に適ったフォームをしていたのに驚かされました。素行不良で評価がガタ落ちだったダルの評価を、最高評価の ☆☆☆☆☆ にした大きな原動力になったのも、このフォームの土台の良さだと、今でもハッキリ覚えています。それと同様のことが、この大谷も言えるわけです。これは、投げ込む球は破格でも、技術的に課題も多かった 菊池雄星にはなかったこと。そういった意味では、彼には無限の可能性を感じずにはいられません。 (今後は) とりあえず万全の状態の彼を、一度じっくり見てみたいですね。そして先にもあげたように、精神面がどうなのか?その辺の成長も気になるところです。そういった怪我への不安や精神面の部分を抜きにして、純粋に持っている器の大きさと言う意味では、私が見てきた高校生の中でも一番の大きさかもしれません。 あとは、その器の中に、いかに満遍なく水を注ぐことができるのか。そこは、もう彼の器の丈夫さと、注ぎ方のセンスにかかっていると思います。才能に関しては、高校野球史上最高の素材かもしれません。 (2011年夏・岩手大会) |