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榎下 陽大(日本ハム)投手のルーキー回顧へ




榎下 陽大(九州産業大)投手 178/78 右/右 (鹿児島工出身)





                 「何故榎下は、4位だったのか?」





 下記の動画にもあるように、昨秋の神宮大会での榎下 陽大の投球を見れば、誰しもが上位24名ぐらいの中には入ってきそうなものだと思ったはずだ。しかし上位指名候補の呼び声高かった 榎下 陽大 は、蓋を開けてみれば4位指名と、意外な低評価で日ハムに指名された。その理由は、何だったのか? もう一度考えてみたい。


(リーグ成績)

リーグ 試合数 勝ち 負け イニング 被安打 四死球 奪三振 防御率
1年春 4回 1/3     10.39
1年秋 22回   12 24 2.45
2年春 46回 1/3   19 57 2.72
2年秋 34回   13 34 1.06
3年春 10 56回   23 60 1.45
3年秋 41回 1/3   43 2.40
4年春 54回 1/3 25 10 61 0.66
4年秋 41回 2/3 25 41 0.65

 3年連続春のシーズンで、敢闘賞を受賞。また最後のリーグ戦では、祈願の防御率1位のタイトルも獲得した。リーグ戦の成績を見ても、年々その内容を向上させてきたように、野球への意識が高い選手なのがわかる。特にルーズショルダーでありながら、それでも最終学年では抜群の安定感を示し、試合をまとめる能力はさすがだと言える。

1,被安打は、イニング数の70%以下 

 ちょっと被安打数は、最終学年の2シーズンしかわからなかった。いずれも基準である70%を遥かに満たすなど、球の威力はリーグでも図抜けた存在だった。

2,四死球は、イニングの1/3以下 

 一見荒そうに見えて、要所はしっかり締めるようになった現在の投球スタイルは、実は3年秋のシーズンからであることがわかる。ボールを先行しても、結局は四球を出すことなく相手を仕留めている。そんな踏ん張りの効くピッチングスタイルは、数字の上からも証明されている。

3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 

 1年春のリーグ戦登場以来、そのすべてのシーズンにおいて、イニング数と同等から上回るペースで三振が奪えている。これは、縦の変化と言う大きな決め手があるからだろう。

4,防御率は、1点台が望ましい 

 投手として本格化した2年秋以降、3年秋のシーズンを除けばすべて条件を満たしている。特に最終学年では、圧倒的な安定感を示していた。また3年秋のシーズンは不調でも、全国大会に出場した神宮大会では、快刀乱麻の投球で、強豪・創価大を1安打完封。翌年の上位候補として、スカウト達に強烈にアピールできた

(データからわかること)

 リーグ戦では、とてもルーズショルダーに苦しめられていたと言う印象は、その数字から伺えない。しかし実際にその投球を見てみると、昨秋のような勢いのある投球は、陰を潜めた一年だった。





(2010年の榎下は)

 私は、今年3度ほど生で榎下の投球を目の当たりにした。1度目は、世界大学選手権のセレクション。2度目は、秋のリーグ戦。そして3度目は、TV中継がなかった神宮大会の東農大生産学部戦である。その投球を見て感じたのは、昨秋の神宮大会を10と考えるならば

世界大学選手権セレクション 5
2010年度秋のリーグ戦  7
神宮大会・東農大生産学部戦 6
上記の動画にある国学院大戦 8

ぐらいの出来だったのではないのだろうか?むしろ今年驚かされたのは、改めて榎下の、試合をまとめる能力・勝負にかける意気込みと言う部分である。そういった精神的な部分で、この男は、単なるイケメン投手ではないなと言うものを強く実感させられた。


(投球内容)

 いかにも、肩を強引に振って投げるフォームなので、いつ故障するのかと、観ている方もハラハラしてしまうダイナミックなフォーム。

ストレート 130キロ台後半~MAX149キロ

 私が生観戦した秋のリーグ戦(福岡経済大戦)では、先発で常時135~MAX141キロ程度しかでない内容で、球威・球速は物足りないものだった。リリーフで登場した神宮大会の東農大生産学部戦でも、常時140~MAX146キロまで記録していたが、その球の勢い・伸びは、昨秋の神宮大会に比べると物足りなかった。上記の動画にある国学院大戦(東農大生産学部戦の翌日の試合)では、球速こそ145キロ前後を連発しているが、やはり昨秋ほどではなく、ストレートでの空振りが少なかったり、フォークが簡単に見極められるなど、それほど球が来ていなかったことが伺われる。やはりその状況を一年間、間近で見守ってきたスカウト達の評価は、けして間違っていなかった気がする。

変化球 カーブ・スライダー・フォーク・カットボール・チェンジアップなど

 右打者の場合には、速球とカットボール・フォークの組み合わせ、左打者には、速球とチェンジアップのようなカウントを稼ぐフォークと空振りを誘うフォークとの組み合わせ中心に投球が構成されている。

 どうしてもフォークを多投する投球スタイルなので、体への負担が大きくなるだけでなく、どんどんコンビネーションが単調になり、投球が窮屈に感じられる。現状の配球ならば、プロで長いイニングを組み立てて行くのは厳しいだろう。

その他

 牽制・フィールディングは平均的。クィックも1.1秒~1.2秒前後と基準レベル以内で投げ込んで来る。ただそういった部分よりも、試合を壊さない勝負どころのコントロールと、要所を締められる気持ちの強さが、この選手の最大の魅力だろう。

(投球のまとめ)

 なかなか元来の状態に戻らないなかでも、リーグ戦の数字を向上させたように、悪い時には悪いなりに試合をまとめる術に磨きがかかった一年ではなかったのだろうか。球としての魅力は確かに薄れたのだが、試合を作れる・壊さないと言うセンスに関しては、今年の候補の中でも1,2を争う存在だろう。打席に入った神宮大会では、野手顔負けのスイングにベースランニングを魅せるなど、勝利対する貪欲さは誰よりも強いものが感じられる。


楽天


(投球フォーム)

 元ロッテの小宮山悟のような、独特の構えから、ノーワインドアップで投げ込みます。基本的に下記にある昨秋のフォーム分析の時と変わっていないように見えます。

 相変わらず強引なまでに、腕を真上から振り下ろして来るので、体への負担は尋常ではありません。ただ野球への意識も非常に高い選手なので、上手く体と付き合いながら、プレーして行ける選手ではないのでしょうか。

 少し気になったのは、ステップが広すぎて重心が深く沈み過ぎで、前への「体重移動」が阻害されているのではないかと思います。昨秋よりも、ボールの勢いが劣るのは、肩の状態だけでなく、この部分のフォームのバランスが、若干崩れていたからかもしれません。また「開き」がやや早い傾向にある投手で、ボールを見極められやすい傾向にあります。この点も実戦派投手としては、改善して行きたいポイントでした。


(最後に)

 指名順位を下げた理由は、やはり年間を通して、昨秋ほどの投球を示せなかったため。ただでさえ怖い投球フォームだったのに、実際にルーズショルダーと相談しながら投球をしていたと言う話が、広まっていたせいもあるのではないのだろうか。だからその実力以上に、実際の評価は低く抑えられた可能性が高いと考えられる。

 ただ先にも述べたように、野球への意識が物凄く高いこと。天性の勝負どころでの強さ・試合をまとめる能力があることからも、この体質と上手く付き合いながら、プロ生活を送って行くことが期待できるのではないのだろうか。そういった状況の中で、試合を作る術には、更に磨きがかかった一年であったと評価する。

 この秋は復調気味ではあったが、その内容からは4位指名でも致し方なかったなかったかなと正直思えてくる。ただその甘いルックスに、熱いハートの持ち主。プロのマウンドに立つことができれば、一躍人気ものになることは間違いない。プロでも一年目から、ある程度活躍できる下地のある選手であり、どんなハートのある投球を魅せてくれるのか、今から本当に楽しみな投手であります。願わくば、一日でも良い状態で、投げられますようにと!


蔵の評価:
☆☆☆ (上位指名級)


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年 神宮大会)







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榎下 陽大(九州産業大)投手 178/70 右/右 (鹿児島工出身)





         「フォームは理想的なのだけど、一点を除けば・・・」





 鹿児島商工時代は、甲子園でベスト4の活躍。大学・社会人タイプの好投手との印象が強かったが、今や大学球界を代表する剛球投手に成長した。MAX149キロを誇る速球を、豪快に投げ下ろすダイナミックなフォームは、まさにオールドタイプの豪腕投手を彷彿させる。

(消耗激しそうだけれど・・・)

 強引に肩で投げるフォームは、誰しも肩壊しそうと思わせるフォームだ。それでも本人は、恐れを知らずバシバシと投げ込んでくる。その球速は、コンスタントに140キロ台をオーバーし、MAX149キロに到達。独特の糸を引くような球筋は、単に球速表示が出るだけの投手ではない。

 変化球は、球速差40キロ以上もある100キロ台のカーブ、それに追い込むと縦に落差のあるフォークボールを投げて来る。制球も、適度にコーナーに散っており、四球で自滅するタイプではない。元々高校時代から好投手として鳴らした投手だけあって、マウンド捌き・要所を締める術も心得ている。クィックなども1.15秒前後と基準レベル以上で、投手として隙はほとんどない。しいて言えば、中間球であるスライダーを、配球の中に交えて来ると、もっと投球の幅は広がりそうなのだが・・・。それはともかく、逸材数多いる2010年度世代の中でも、すでにトップクラスの実力の持ち主だと言えよう。

(問題のフォームは?)

 高校時代は、正直もっと腕の振りが固く、アーム式だった気がする。しかし今は、強引に肩で投げるフォームは変わらないが、腕の振りは以前よりも柔らかく使えているのではないのだろうか? 

 特にフォームに関しては、お尻を一塁側に落とせるし、着地までの時間も稼げる「間」も作れているので、見分けの難しいカーブや、縦の変化も無理なく投げられるフォーム。

 投球動作の4大動作である「着地」「球持ち」「体重移動」が良く、しいて言えば「開き」が少し早いかなといった程度と、極めてレベルの高いフォームをしている。ただ気になる点をあげるとするならば、やはり異常なまでに腕を引き上げて投げ下ろす、腕の角度だ。ここまで角度をつけてしまうと、体への負担は尋常ではないはず。それを如何に、アフターケアを注意して、維持して行くのかが今後のポイント。このフォームで長く活躍して行くためには、相当な野球への意識の高さが求められる。

 ただ彼の場合、先発でも試合を組み立てられるタイプなので、無理にリリーフで起用しなくても、プロでも先発で間隔を開けて登板させることも可能だろう。それだけの力量が、すでに身につけつつある。

(今年のチェックポイント)

 このフォームが怖いことは、誰しもが思うところだろう。ただこの腕の振りを変えたら、彼の持ち味は薄れてしまうかもしれない。幾らリスクの少ないフォームにしても、持ち味を損ねてしまっては、元も子もない。むしろ、普段からアフターケアに充分気をつけるとか、起用する首脳陣が使い方に注意することを考えるべきではないのだろうか。

 故障なく、全国の舞台でアピールできれば、それだけで上位12名に入ってくる投手。更にプラスαの成長が望めたら、複数球団で競合するレベルにあるだろう。ただプロ野球関係者は、その内容よりも見た目の先入観を重視するので、このフォーム故に、その実力ほど評価されない可能性は秘めていると思われる。

 ただそれでも投手としてのマウンド捌き・「間」の取り方、制球・変化球・ストレートの質など、すべてにおいてハイレベルであり、また投手としての、勝負どころの「強さ」も持っておリ、投手をするために、生まれてきたような投手。

 2010年度の候補の中でも、開幕ローテーションを意識できる素材は、斉藤佑樹(早稲田)・南昌輝(立正大)、そしてこの榎下陽大が、現時点では最も有力ではないのだろうか。開幕ローテーション投手を欲しい球団にとっては、ぜひマークしたい地方リーグ屈指の逸材だと言えよう。


(2009年・秋) 










 順調に行けば、2010年度のドラフトにおいて、1位指名の有力候補の一人であるのが、今回ご紹介する、榎下 陽大(九州産業大)投手である。今回は、ちょっと癖のある、彼のフォームを考察してみたい。

<踏み出し> ☆☆☆

 ランナーがいなくても、前足を少し後ろに引いた独特のセットポジションから、投げ込んで来る。足をスッと引き上げる勢いもあり、高さもまずまずだ。セットポジションでも、エネルギーをしっかり作り出すことができている。

<軸足への乗せとバランス> ☆☆☆☆

 足を引き上げて軸足一本で立った時に、膝から上がピンと真上に伸びきることなく、余裕を持てて立っている。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。彼の場合、全体のバランスも良く、軸足の股関節にも、しっかり体重が乗せることができている。

<お尻の落としと着地> ☆☆☆☆

 あまり足を空中でピンと伸ばすタイプではないが、お尻は適度に一塁側に落とすことができている。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながるからだ。

 また地面に着きそうなところから、足を前にグッと伸ばすことができ、着地のタイミングを遅らせることもできている。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆☆

 グラブを最後まで、内に抱えることができている。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。

 また足の甲での地面の押し付けにも、深く粘りが感じられる。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。

<球の行方> ☆☆☆

 気になるのは、実戦的な技術が集約されている、この部分だ。元々セットポジションで投げ込んでいることあり、打者からは球が隠しにくい。また着地した時点でも、ボールの出所が見え始めており、体の「開き」が、やや早い傾向にある。

 ただそれ以上に気になるのが、背中を仰け反るぐらい倒したあと、非常以上に角度をつけてボールを投げようとするフォームだ。独特の肩で投げるフォームは、長いプロの登板数・イニング数を考えると、やはり負担が大きすぎる気がする。腕の角度には、適正な角度と言うものがあり、リリースする時に、ボールを持っている腕上がり過ぎず、グラブを持っている腕が下がり過ぎないように放るべきなのだ。しかし、ここをいじってしまうと、彼の持ち味も失いかねないので、アフターケアには充分注意して欲しい。
 ただ見た目の強引な腕な振りに見えて、「球持ち」は、なかなか良いものがある。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。

<フィニッシュ> ☆☆☆☆

 豪快に振り下ろした腕は、強く体に叩きつけられており、腕が振れているのがわかる。前への「体重移動」も悪くなく、ボールにしっかり体重を乗せることができている。それでいて、投げ終わったあとに、大きくバランスを崩すことはない。

(投球フォームのまとめ)

 意外に荒削りに見えるフォームも、実は物凄く理にかなったフォームとなっている。制球を司るグラブの抱えや足の甲の押し付け・バランスを崩さないフォームのため、制球が安定。

 お尻を落とせ・着地も粘れるフォームなので、カーブやフォーク系の球も、しっかり投げられるフォーム。投球フォームの4大動作にあてはめてみても「着地」「球持ち」「体重移動」などは、なかなか素晴らしいものがある。しいて言えば、少し「開き」が早いかなと言う程度で、これも悲観するほどではない。

 ただ、必要以上の腕の角度が、彼の持ち味でもあり、最大の不安要素もでもある。これを改善すること、修正させることは、彼の持ち味を失いかねないだけに、非常に慎重にならないと行けない部分だろう。少なくても彼には、人並み以上に、アフターケア・体の手入れには、細心の注意を望みたい。その意識があるかどうかが、最終学年の大きな見極めのポイントになるのではないのだろうか。


(2009年・秋) 






榎下 陽大(鹿児島・鹿児島工)投手 177/71 右/右


 昨夏の鹿児島大会の模様を見て、この投手が来年の鹿児島NO.1投手になるだろうと、その成長を期待していた好投手。球速も着実に伸ばし、甲子園ベスト4の原動力にもなった。甲子園でもその好投手ぶりを実証した、榎下 陽大 を今回は取り上げてみたい。

(投球スタイル)

 少々肘の曲がらないアーム式なフォームは相変わらず。しかし手元まで伸びのある球を投げ込む投手で、球威・球速以上に打者には速く感じられるはずだ。甲子園での球速は、常時135~130キロ台後半。少々ドラフト候補として見るには、球のボリューム感の点では物足りない。

 変化球は、縦に割れるカーブ・スライダー・それにフォークなど一通りの変化球を織り交ぜて来る。しかし投球の多くは、速球とカーブとのコンビネーション投手だと言えそうだ。

<右打者に対して> 
☆☆☆☆

 アウトコース真ん中~高めのゾーンに速球を、真ん中近辺にカーブを、外に逃げて行くスライダーで投球を組み立てている。投球のほぼ8割以上はアウトコースで構成されており、たまにインコースの厳しいところにズバッと投げ込んで見逃しの三振を奪う。内角への比率は高くないが、厳しいところに投げられる度胸と制球力を併せ持つ。たまに真ん中近辺に甘く入ることもあるが、高校生レベルでは、制球力は高い方だと言えそうだ。また打ち気を反らしたり、マウンド捌きの良さにも見るべきものがある。

<左打者に対して> 
☆☆

 基本的には、アウトコースに速球を投げ投球を組み立ててくる。カーブやらフォークなどを織り交ぜ緩急と球の威力で仕留める配球パターン。制球力はアバウトになり、真ん中近辺に入る甘い球も少なくない。

 今後の課題としては、左打者に対する制球力をもっと磨くこと。そして速球以外に、しっかりコントロール出来る変化球を、左打者に対しても有して欲しい。これから上のレベルの打者達は、優れた左打者が増えて来るからだ。

(投球フォーム)

 下記にリンクされている「迷スカウトの足跡!
2006年9月10日更新分に、榎下投手の投球フォーム連続写真を掲載しておいたので、そちらを参照にして読んで頂きたい。

<踏みだし> 
☆☆☆

 写真1を見ると、両足の横幅を取って、ゆったりとノーワインドアップで構えている。バランスが取れ、力みが感じられない構えが好い。

 写真2の段階までに、足の引きあげは静かで、その高さは並程度。典型的な先発タイプの踏みだしだと言えよう。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆☆

 写真2を見ると、軸足の膝から上が、ピンと伸びきることなく適度な余裕があるのが好い。これによりフォーム全体に力が抜けた好いフォームを生みだしている。全体のバランスも取れているし、軸足の股関節にもしっかり体重が乗るなど、好い立ち方が出来ている。

<お尻の落としと着地> 
☆☆☆

 引き上げた足を二塁側(見ている我々の方角)に送り込んでおり、捻りを生み出してはいるが、こうするとお尻がバッテリーライン上に残ることになる。上のレベルで通用するための見極めの難しいカーブや縦に落差のある球を修得するのには、あまり適したフォームではない。

 ただ投球動作で大事なのは、むしろ着地のタイミングを遅らせること。この投手の場合、写真4の着地の段階までに、大きく前にステップして着地のタイミングを遅らせることに成功している。ただ広すぎるステップが、体重移動の観点では不充分になっているのだが・・・。

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆☆

 グラブはしっかりは抱えられてはいないが、身体の近くには最後まである。写真5を見ると、足の甲で地面を深く長く押し付けることが出来ている。この点では、高校生としてはA級の粘りを感じさせる。

<球の行方> 
☆☆☆

 写真3の段階では、ボールを持っている腕を上手く隠せている。写真4の着地の段階では、ボールを持っている腕は見え始めようとしている。身体の開きが、やや早いタイプだと言えよう。

 気になるのは、写真5の腕の角度。写真4の段階で、それほど肘が高い位置にないのにも関わらず、無理に高い角度から腕を振りおろしており、無理のあるフォームになっている。写真5のように、極端に左側の肩が下がる投手は、当然開きが早く打者からは球の出所が見やすいのだ。もう少し的確な角度に腕を下げたいところだろう。

 ただ素晴らしいのも写真5に集約されている。この投手は、身体の開きこそ早めなのだが、球持ちが素晴らしい。打者から球は見えてきても、中々ボールが出てこないのだ。これならば、打者もタイミングは、けして取りやすいことはないだろう。

 球持ちの良さは、打者のタイミングを外すだけでなく、スナップを効かし球にバックスピンをかけるので、球が手元まで伸びてくる。また指先まで力が伝えやすいので、制球力もつきやすいのだ。そのため着地と並ぶ投球動作の核となる。この球持ちの良さは、06年度の高校球界でも、斉藤佑樹(早実)と並び全国でもトップクラスだろう。

<フィニッシュ> 
☆☆☆

 写真6を見ると、振りおろした腕がしっかり身体に絡みついて来る。角度よく球を長く持っていた証なのだ。ただ気になるのは、これだけ足の甲でフォーム後半にエネルギーを伝えたはずなのに、地面の蹴り上げが弱い印象を受ける。それは何故か?

 それはステップを広く取りすぎて、軸足と踏み込んだ足の間にお尻が落ちてしまい、前にしっかり体重が移って行かなかったからだろう。的確なステップ位置を身につければ、まだまだ球速も変わって来るのではないのだろうか。投げ終わった後のバランスは取れていた。

(最後に)

 かなり高校生としては、完成度の高い投手ではある。今後爆発的に伸びるようなタイプには見えないが、的確なステップ・腕の角度を身につければ、もっともっと好くなるだろう。上手くその辺を改善しつつ、実戦力・肉体の更なるパワーアップも望めれば、3,4年後は、実戦派右腕として楽しみな存在だ。大学でも社会人でも、どちらに進んでも楽しみなタイプだろう。昨夏からの成長はゆるやかであったように、これからも少しずつ力量を伸ばして行って欲しい。末永く、応援したい一人であった。

(2006年 9月10日更新)







 肘の曲がらないアーム式投法で、腕をブンと振って来るタイプのフォーム。球速は常時130~135キロぐらいの速球を力任せに投げ込んできつつ、スライダーとシュート回転して抜けるフォークボールを織り交ぜつつ、緩急を効かせたブレーキの良い縦のカーブが、相手の度肝を抜く。

 腕の振りは気になる部分ではあるが、意外に制球力・変化球のレベルも悪くなく、球に勢いがあるだけに、来年はかなり期待できそうだ。06年度の鹿児島を代表する存在として、ぜひ覚えておきたい一人であろう。